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社説・コラム

社説 中国全人代 軍事費も抑制に転じよ

 指導者の交代を控える中国。世界第2位の経済大国のかじ取りに、期待と懸念を同時に抱かざるを得ない。

 日本の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が開幕した。温家宝首相演説の最大のポイントが経済成長率目標の7%台への引き下げだろう。

 がむしゃらに高度成長に突き進んできた姿勢を改め、バランスの取れた国づくりを目指すとすれば、一定の評価はできる。

 しかし、国防費を11%以上も増やし、明らかに突出するのはいかがなものか。この秋にも事実上のトップの座に就く習近平国家副主席は、国際社会の目をどう感じているのだろう。

 胡錦濤国家主席にとって10年間の指導体制の総仕上げの年だ。「世界の工場」として経済成長率目標で8%台をほぼ維持してきた。国内総生産(GDP)で日本を追い抜いた。

 「和諧社会(調和の取れた社会)の実現」をスローガンに掲げ、格差の是正や持続的な安定成長を目指す方針も強調してきた。

 しかし、その目標が達成に近づいたとは言い難い。国内外で不安定要素は増している。

 欧州債務危機は、輸出に頼る製造業の行方に影を落とす。リーマン・ショックを受けて実施した大規模な景気刺激策は、不動産価格の高騰を招いた。バブルがはじける前に「軟着陸」させることが最重要課題である。

 民主主義や人権を軽んじ、経済成長を最優先させることで、輸出競争力を付けてきた。行政の腐敗が進み、国民の貧富の差の拡大や、環境破壊も深刻だ。

 ここ数年、開発を目的とした強引な土地収用の犠牲になった農民の不満が爆発し、各地で暴動やデモが頻発している。

 そんな中で成長の速度だけを調整しても、国民生活や人権などの課題は先送りとなる。公正な社会の実現と、国際経済のけん引役を両立してほしい。

 経済成長が安定志向へ傾くのに対し、膨張を続けるのが国防費だ。アジア太平洋地域の安全保障環境を不安定にするものであり、看過できない。

 温首相は政府活動報告で、軍の近代化を明言した。2012年度の国防費は6700億元(8兆7千億円)に達した。

 胡錦濤指導部の10年間で3.5倍に増える計算という。しかも研究開発費の一部などは入っておらず、実質的な総額がさらに膨大であることは確実とされる。

 中国は昨年、ウクライナから調達した空母の試験航海を始めた。自前での建造も目指す。西太平洋で軍事的な影響力を広げようとする意図がにじむ。

 空母11隻を持ち、世界の軍事予算の43%を占める米国が、他国を圧倒しているのは確かだ。しかし中国の軍拡を正当化する理由にはならない。

 とどのつまり、軍拡競争の連鎖を生みはしないか。加えて国防費の内訳や使い道が不透明なままでは、日本や米国などの間で「中国脅威論」を助長するだけだろう。

 経済政策だけでなく、国防政策にも抑制を利かせるべきだ。対外的に脅威を植え付けるよりも、まずは国防費を透明化し、周辺国との信頼醸成を図ることこそ人口13億人の大国の責任といえよう。

(2012年3月7日朝刊掲載)

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