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社説・コラム

社説 放射能汚染の対策 地域の再生につなげよ

 犠牲者への追悼と復興への決意を新たにした一日だった。福島第1原発事故の深刻な影響をあらためて痛感する。

 放射性物質による被害は大気や土、水の汚染にとどまらない。東日本大震災の直後から被災地全域への迅速な支援を妨げ、復旧・復興を遅らせる最大の障害になっている。

 野田佳彦首相が福島の再生を最優先させると説くのも、放射能汚染を重くみる表れだろう。

 地元での対策として、詳しい健康調査や生活環境の整備を急ぐ必要がある。原発に替わる新産業の創出を通じた雇用の確保を含め、復興には多方面からの手だてが欠かせまい。

 汚染対策のうち、ほかの地域にとっても切実なのは食品による年間被曝(ひばく)限度の問題である。厚生労働省は新年度から従来の5ミリシーベルトを1ミリシーベルトに引き下げる。

 このため食品中の放射性セシウムを規制する新しい基準値を設定。現在の暫定基準値より一段と厳しくする。乳児向けの食品を新たに区分けしたり、影響を受けやすい子どもの数値に全体をそろえたりしている。

 遅ればせではあるが、健康不安を和らげる施策として評価できよう。規制を先取りして厳しい基準を設けたメーカーやスーパーの商品だけでなく、消費者が広く選べるようになる。

 一方で、コメや野菜の生産現場には「基準値に近い結果が出るだけでも、打撃が大きい」との懸念がある。

 事故直後の放射能拡散に対する政府と東京電力の不手際もあり、肉用牛の餌だった稲わらや出荷後のコメから高い数値のセシウムが検出された。そのたびに福島県産というだけで、売れ行きが大幅に落ち込んだ。

 こうした被害を食い止めるには作付けや飼育のきめ細かな管理を徹底し、検査態勢を強めてデータを全面的に公開することが欠かせない。

 最終的には消費者の判断に委ねるほかなかろう。ただ福島の復興を促すため、地場産業を支援しようとの機運は高めたい。

 原発からの距離で同心円状に分けただけの避難指示区域も現状を改め、今月末にも年間被曝線量に応じて3区域に分ける。

 線量が比較的低い区域の公共施設から優先し、放射性物質の除染を進める。スピードアップのためにも当然の措置だろう。

 区域見直しに当たっては現在の市町村単位でなく、旧来の「字」を基本にするという。避難先から古里に戻ろうとする住民が集落ごとに意見をまとめるためにも、好ましいといえる。

 放射能が不安だから帰らないという選択肢もある。だが地域の再生には一定数の世帯が必要だ。折り合いがつくよう話し合いを深められないだろうか。

 もちろん除染を徹底させ、住民が自由に判断できる条件を整えることが大前提となる。

 放射能汚染は「どこまでなら安全か」とつい、線引きを求めたくなる。しかし専門家でも意見が分かれているのが実態だ。

 まずは被曝線量をできるだけゼロに近づけるため最善を尽くす。その上で、健康診断をはじめとする測定や監視に万全を期す。このほかに有効な対策は見当たらない。

 危険性を十分にわきまえ、放射能と冷静に向き合いたい。被爆から復興したヒロシマの蓄積が役立つこともあるはずだ。

(2012年3月12日朝刊掲載)

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