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社説・コラム

社説 震災がれき受け入れ 熱い心で冷静に判断を

 もつれていた糸が、ここにきて一気にほどけていく気配なのだろうか。

 岩手、宮城両県内の震災がれきを引き受ける広域処理について、東京都などに続き、静岡県島田市が本格的に乗り出すという。北九州市議会は市側に受け入れを要請する決議を全会一致で可決。きのうになって防府市長も名乗りを上げた。

 震災1年の報道で途方もないがれきの山を目にし、復興の妨げと実感した国民も多かろう。歴代の環境相が協力を呼び掛けるなど、超党派の動きも功を奏しているかもしれない。

 難物は、福島第1原発の事故で飛び散ったセシウムなど放射性物質にほかならない。降下した地域は風雨の影響で同心円状には広がらず、約250キロ離れた岩手県中部にも及んだ。

 飛散物質は、がれきの焼却灰に濃縮される。100キロほど離れた福島県南会津町では実際、民家のまきストーブの灰から1キログラム当たり1万ベクレルを超す高濃度のセシウムが検出されている。

 広島、山口両県が受け入れに慎重なのも、住民を被曝(ひばく)から守るための法律があり、それを順守するのが自治体としての務めだからだ。

 そもそも、がれきが被災地の外へ滞りなく運びだされたとしても、山が一気になくなるわけではない。広域処理に回す量は、岩手、宮城が抱える計約2千万トンのうちの約400万トン。全体の2割にすぎない。

 それでも、被災地で建設が立ち遅れているがれき処理施設の敷地をつくり出せるなど、地元の期待は大きいようだ。

 とはいえ、セシウム濃度が8千ベクレル以下の灰なら「汚染していない一般廃棄物並みの埋め立てが可」とする国の基準は1月に決まったばかりだ。従来の100ベクレル以下から、いきなり80倍もの引き上げ。十分納得していない自治体も少なくなかろう。

 原発事故後、国や東京電力による情報開示や安全対策はことごとく遅れてきた。地方に不信感が根強いのは無理もない。

 「タウンミーティングの全国行脚で安全性について国は説明すべきだ」(広島県)との声を受け止めねばなるまい。運搬時の飛散防止策や他の化学物質を含めた検査体制など、一つずつ丁寧に疑念を晴らすべきだ。

 「日本人の国民性が試されている」(野田佳彦首相)などと国民任せにするよりも、まず国自らがなすべきことがあるはずだ。それに東電をはじめ、電力会社はこの問題でなぜ汗をかこうとしないのだろう。

 このオピニオン面「発言交差点」に寄せられた意見の多くには、「被災者の重荷を見過ごせない」という相通じる真剣な思いがあったのではないか。一日も早い復興に向け、打開策を見いだしたい。

 被爆地広島や長崎の動向は注目されている。放射性物質の影響について科学的に測定、検証できる手だてを講じ、一般廃棄物並みと判断されるがれきだけを受け入れる。そうした条件付きで一歩踏み出せないものだろうか。

 自治会長たちとともに現地を訪ね、窮状をじかに知る手順を踏んできた島田市の動きは参考になろう。

 自治体同士、住民同士、被災地と向き合う「対口(たいこう)支援」の絆づくりを国が橋渡ししてもいい。

(2012年3月14日朝刊掲載)

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