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社説・コラム

社説 沖縄海兵隊の移転 「岩国」断念は当然だが

 米国の「ごり押し」に日本政府が歯止めをかけた。その点は評価できるだろう。沖縄に駐留する米海兵隊の一部を岩国基地(岩国市)に移転する案を米側が断念した。

 岩国には米軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機が移転してくる。そこに降って湧いた追加負担の要求だった。

 艦載機移転を前提にした岩国市の愛宕山地域開発事業跡地の国への売却について、山口県の二井関成知事が留保したのも無理はない。今回の米側の「撤回」を受け、米軍住宅用地として国が購入する手続きが進みそうだ。

 一方で沖縄の海兵隊の行方は不透明で、岩国に移らない要員が残留する懸念が強まっている。普天間飛行場(宜野湾市)の返還も実現しそうにない今、「沖縄の負担軽減」という米軍再編の目的は大きく揺らいでいるといえよう。

 岩国移転を断念する米側の意向は、外務省と防衛省の政務官が山口県庁と岩国市役所を訪れて伝えた。

 もともと米側は沖縄からグアムへ8千人の海兵隊員を移すと約束していた。グアムの施設整備が進まないからといって、うち1300人を岩国で受け入れてほしいというのは米側の「約束破り」にほかならない。日本政府が拒否するのは至極当然である。

 防衛省側はさらに、愛宕山について今月末までに取得する意向を示したという。

 二井知事は即答は避けたうえで「条件」を満たすよう国に求めたが、愛宕山売却に向け最大の障壁は取り除かれたと判断しているようだ。今年8月までの在任中の解決へ大きく前進した格好である。

 今後は国がこの条件を誠実に実行するかどうかを見極めることになる。だが「空母艦載機の離着陸訓練(FCLP)のための恒常的な施設を岩国基地や周辺に整備しない」ことにしても容易ではない。

 候補地選びは見通しが立たず、岩国基地で訓練するのではないかとの不安がくすぶっている。

 さらに知事が条件の中で「米軍再編全体が一つのパッケージ」だと再確認するよう国に求めた意味は大きい。

 2006年に日米両政府が合意した米軍再編のロードマップは艦載機移転のほか、普天間飛行場の移設と返還、海兵隊のグアム移転や関連の米軍施設の返還などが柱だ。

 米軍の抑止力を維持しつつ沖縄の負担軽減を図るのが大きな目的である。ところが、普天間の移設だけでなく、至る所で行き詰まっている。

 岩国に回そうとした要員を含め海兵隊員3300人の行き先も宙に浮いたままだ。既に地元から、このまま残留するとキャンプ瑞慶覧(沖縄市など)の返還交渉に影響が出そうだとの声が上がっている。

 もはやロードマップは破綻状態だ。日米両政府は岩国への艦載機移転で実績を挙げたいだろうが、現実的にも14年の目標実現は困難である。むやみに急ぐべきではない。

 日本周辺の安全保障環境も変化している。真の抑止力とは何かの観点も踏まえ、日米は再編ロードマップの抜本見直しを図ってもらいたい。

(2012年3月17日朝刊掲載)

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