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社説・コラム

『記者縦横』 被災地の「叫び」忘れぬ

■報道部 荒木紀貴

 3月に東京支社から広島の本社に戻ってきた。東京では余震や放射性物質の拡散などで「3・11」を身近に感じた。距離的には東北から遠くなった今も、転勤前に聞いた被災地の「叫び」が頭から離れない。

 東京での送別会。私と同じく東京に勤務する河北新報(仙台市)の記者から懇々と言われた。「がれきの山が残ったままで復興が一向に進まない。被爆地の広島が受け入れてくれれば、全国でも動きが広がる。広島で訴えてほしい」と。

 国は宮城、岩手両県のがれき処理を全国の自治体に求めている。福島第1原発事故が起きた福島県分は除いているが、がれきに含まれる放射性物質への不安が強く、受け入れは進まない。被災地には「風評被害」との思いもある。放射線被害への知見を蓄積する被爆地だからこそ果たす役割があると感じた。

 新たな持ち場は広島県政。早速、県の幹部に被災地の声を伝えた。その幹部は「被災地を助けたい」と言いつつも慎重だった。がれきの安全基準や検査方法について国の説明があいまいだからだ。放射線被害に苦しまされた被爆地であるがゆえの不安も強いという。広島県に生まれ育った一人として、その気持ちも理解できた。

 まずは、原子力行政に責任を持つ国が基準を示す。そして「国が責任を持つから受け入れてほしい」と要請すべきだ。被爆地から建設的な提案もしたい。少しでも早く被災地の友人に朗報を届けられたらと思っている。

(2012年3月19日朝刊掲載)

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