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社説・コラム

今を読む 駐広島韓国総領事 辛亨根 ソウル核サミット

被爆地から関心寄せて

 2009年4月、オバマ米大統領はチェコ・プラハで「核兵器を使用した唯一の国として、米国は核兵器のない世界へ行動する道義的な責任がある」とスピーチした。

 同時に、至急対処すべき安保課題として、テロ集団による核兵器や核物質の入手可能性をとりあげ、各国首脳が集まってこの問題を議論することを呼びかけた。

 これを受けて翌年4月にワシントンで開かれたのが、第1回核安全保障サミットだ。核テロ防止の重要性と核物質の不法取引防止のための国際協調の強化を唱えた。

 核テロの脅威に集中した史上初のサミットには、核拡散防止条約(NPT)に加盟していないインドやパキスタン、イスラエルも参加した。

 とはいえ、被爆のつらい記憶を抱えている日本人には、いささか物足りないかもしれない。世界中の核兵器の廃絶を訴え、平和市長会議を提案し主導してきた広島の市民にとってはなおさらであろう。

 ただ核兵器廃絶が目標だとしても、今ある核兵器と核物質をどう統制し、不測の事態に備えるか。現実問題としては、統制が喫緊の課題にならざるを得ないのではないか。

 世界には1600トンの高濃縮ウランと500トンのプルトニウムが存在し、これで12万基以上の核兵器が製造できるという。そして、こうした放射性物質の紛失事件は毎年200件以上になる。

 国際原子力機関(IAEA)によると、1993年から11年までに2千件余りの紛失が報告され、うち6割は回収されないままという。

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 第1回のサミットはまさにこうした事態を背景としたものである。だからこそ、核軍備に関してはあからさまな意見の違いを見せる諸国が一堂に集まることができたのである。

 その第2回は韓国ソウルで26日から開かれる。付帯行事として民間中心のソウル原子力インダストリー・サミットもある。

 会議には米国やロシア、中国をはじめ約50カ国の国家首脳と国際連合、IAEA、欧州連合(EU)、そして今回初めて国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)が出席を決めている。

 日本からは野田佳彦首相、さらに韓国の誘いを受けたデンマークなども参加する。核問題をめぐる歴代最大級の首脳会談になる見込みだ。

 議長国を務める韓国は、各国の立場を調整しながら議題を調律し、サミットの公式宣言である「ソウル・コミュニケ」の作成を主導することになっている。

 ワシントンでも取り上げられた核テロへの対応、核物質・施設の防護、核物質の不法取引を中心に議論しながらも、さらに議論の範囲を広げることで、一層強固な世界平和の構築に貢献できるだろう。

 05年にいち早く核テロ防止条約に署名した日本は、第1回サミットに当時の鳩山由紀夫首相が出席して積極的に議論に参加しただけでなく、「ワシントン・コミュニケ」を受けて核セキュリティー強化のための総合支援センターを設立するなど力を入れている。

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 特記すべきは、ワシントン会議とソウル会議との間に、福島の原発事故が横たわっていることだ。

 これがソウル会議に前回とは異なる色合いをもたらした。原子力施設の安全性維持や防護問題が新たに議論されることになっている。

 日本に寄せられる期待は大きい。原発事故の教訓を世界に知らせる一方、原子力の安全に対する注意を呼び起こし、より実践的な提案を行うことが望まれている。

 核兵器廃絶に関する直接的な議論の場とはなり得ないものの、非NPT国も含んだ会議は、今後の世界的な協力を進化させていく可能性を秘めている。参加各国の強い意志がサミットをさらに発展させ、核軍縮への実質的な議論や実行に結びつくことを私も期待している。

 それこそが、サミットでの議論や「ソウル・コミュニケ」に、被爆地も関心を寄せてほしい理由である。

駐広島韓国総領事 辛亨根(シン・ヒョングン)
 54年生まれ。78年に韓国外務部に入り、欧米と南米勤務を経て、04年から中国の青島と瀋陽で総領事を務める。11年3月から現職。日韓交流の拡大に注力している。広島で被爆した父を持つ被爆2世。

(2012年3月20日朝刊掲載)

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