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社説・コラム

社説 放射線教育 「神話」脱するためには

 大人社会にはびこっていた「安全神話」のしわ寄せに違いあるまい。

 福島第1原発事故の後も福島県内にとどまる小中生への共同通信アンケートで、「放射線があまり分かっていない」との回答が4割を超えた。「怖い」と答えたうちの8割は事故で初めて危険性を認識したという。

 新しい学習指導要領に基づいて来月から、中学3年の理科で放射線教育が始まる。

 放射性物質が広域に飛び散る原発事故は人ごとではない。子どもたちの不安を取り除き、基礎知識の揺るがぬ土台をつくってやりたい。

 義務教育で放射線について扱うのはほぼ30年ぶりとなる。ゼロからに近いスタートで、学校現場の戸惑いは大きかろう。

 手掛かりとして文部科学省は副読本を用意している。原発事故が起きる前にいったん作ったものの、原発の安全性を強調する中身に事故後の国会で批判が集中。原発に触れず、放射線の功罪や事故対策に絞って編集し直したいきさつがある。

 低線量被曝(ひばく)と病気との関係については「明確な根拠がないことを理解させる」とする改訂版に、はや批判の声が上がっている。

一方で、原発事故の原因究明そのものはまだ進行形にほかならない。

 手探りとなる今の段階では、結論に導くような学習は避け、放射線を生んだ技術の歴史や被曝のリスク管理といった、科学的なものの見方の習得に力点を置く。そのあたりが穏当ではないかとの見方にはうなずける。

 試行錯誤を余儀なくされる理科教員をどう支えるか。広島県教委は指導主事に放射線障害の専門家の講演を聞かせたものの、市町によっては担当主事がいない所もある。割り当て授業が年間2、3時間どまりということもあってか、現場の実践を見守る姿勢のようだ。

 他県で始まっている試みを参考にすべきだろう。富山県はいち早く、肝心の教員向けに研修会を催している。

 原発事故で全村避難となった福島県飯舘村教委は、小中学校の全学年で教えるという。教員間のネットワークづくりに合同勉強会の場も設けている。

 教育目標として生徒、児童の放射線防護にとどまらず、いじめや差別の防止を掲げた。理科の枠にとどまらず、生き方の問題としてもとらえている姿勢は見逃せない。

 給食や家庭で口に入る食べ物の汚染を接点にすれば、家庭科でも取り上げられよう。いじめや風評被害について道徳や社会の授業で考え合うことも意義深いに違いない。

 教科や学校間の垣根を越えた教員の連携で、多角的な視野から取り組んでもらいたい。

 もちろん、家庭や地域との連携も必要になろう。

 中央教育審議会がおととい答申した「学校安全推進計画」に原子力災害時の想定が盛り込まれている。原発周辺の学校に通う子どもの被曝を最小限にとどめるには当然、地域と一体の避難態勢が欠かせない。

 そもそも「安全神話」から抜け出す必要があるのは、私たち大人自身であるはずだ。

 放射線について正確な知識を蓄え、家庭でわが子とも話し合う。大人の責務を果たさなくてはなるまい。

(2012年3月23日朝刊掲載)

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