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社説・コラム

社説 原子力規制庁 負の教訓生かす集団に

 東京電力福島第1原発の事故を受け、新たに安全規制を担う原子力規制庁の発足が当初の4月1日から大幅に遅れそうだ。政府・民主党と自民党など野党が組織の位置付けで対立し、関連法案の今国会での審議入りさえままならないからだ。

 環境省の外局として設置しようとする政府案に対し、自民党などは公正取引委員会のように国家行政組織法3条に基づく「三条委員会」にすべきだと主張している。

 事故を防げなかったのは、規制組織が原発推進の経済産業省に属し、きちんと機能していなかったためといえる。与野党が議論を尽くし、今度こそ安全性を担保する組織に生まれ変わらせる必要がある。

 規制庁には、これまで経産省の原子力安全・保安院や内閣府の原子力安全委員会などに分散していた業務を一元化する。

 与野党の双方とも、経産省から切り離す点では共通している。安全性のチェックには独立性が欠かせないという認識は同じなのだろう。

 規制庁は事故発生時の初動対応も担当する。独立性の高い三条委員会にすると危機管理の面で連携が十分に取れないとして、規制庁を政府内にとどめる選択をした。

 これに対し、野党側は政治の介入を受けにくくするためにこそ、独立した三条委員会にすべきだと主張している。

 民主党も前回の衆院選の政策集では三条委員会の設置を訴えていたはずだ。方針を転換した経緯について、国民が納得のゆく説明が求められよう。

 規制庁は485人態勢での発足を予定している。政府案にしろ、野党案にしろ、当面の間は保安院の出身者が中心にならざるを得ない。

 移った職員が経産省など出身官庁との関係を断ち切るルールを徹底すべきだ。いずれまた推進側に異動で戻ると思えば、十分なチェックができるかどうか、疑問がぬぐえない。

 独立した委員会組織の先行事例としては、米国の原子力規制委員会(NRC)がある。

 世界最高レベルの専門家4千人を抱える集団で、原発を実際に運転できるくらいの技能を持つ人材をそろえているという。待遇も一般の公務員より厚くしてある。コストより安全を優先する組織文化や人材育成の面でも参考にしてほしい。

 もともと4月発足というスケジュールありきの姿勢が問題視されてきた。6月に提言をまとめる前に規制組織の内容を法案化したのはおかしいと、国会の原発事故調査委員会が抗議声明を出したのはもっともだ。

 国内で稼働中の原発はきょう、北海道の泊原発の1基だけになる。保安院と安全委員会は先ごろ、福井県にある大飯原発のストレステスト1次評価を問題ないとした。野田佳彦首相は地元の同意が得られれば再稼働を政治判断する構えのようだ。

 しかし、能力が疑問視されて消滅する両組織が認めた原発の安全評価である。地元自治体や住民に限らず、国民の不信が晴れたとは到底言えまい。

 規制庁の関連法案には、原発の「寿命」を原則40年とすることや過酷事故対策の義務付けなども含まれる。新たな規制組織に加え、全体的な安全規制の整備が欠かせない。

(2012年3月26日朝刊掲載)

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