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五輪招致検討委近く設置 広島・長崎市長発表 

■記者 滝川裕樹

 広島市の秋葉忠利市長と長崎市の田上富久市長は11日、広島市役所で記者会見し、2020年の夏季五輪の招致検討委員会を近く設置すると発表した。「平和の祭典」である五輪の被爆地開催の意義を前面に掲げ、両市を中心にした複数都市での開催の可能性を探る。来年春までに正式に名乗りを上げるかどうかを最終判断する。

 秋葉市長が会長、田上市長が副会長を務める平和市長会議は「2020年までの核兵器廃絶」を目標にする。秋葉市長は「核兵器廃絶を実現した世界の記念イベントは、五輪以外にはない」と強調。田上市長は「チャレンジの価値はある。(廃絶が道半ばだったとしても)流れを加速させることにつながる」と説明した。

 両市長はこのほか、2020年は鳩山由紀夫首相の国際公約である「温室効果ガス25%削減」の目標年と重なり、環境問題でもアピールできる▽大都市の単独開催が「慣例」の五輪に、複数都市の開催という新たな可能性を提案できる―と訴えた。

 近く広島、長崎市の近隣や両市の間に位置する自治体に検討委への参加を要請する。秋葉市長は既に内々に打診し、前向きな感触を得たケースもあると説明した。

 検討委は秋葉、田上両市長と他都市のトップで構成。(1)複数都市による開催が国際オリンピック委員会(IOC)に受け入れられるか(2)国の支持が得られるか(3)開催資金の調達が可能か―などの課題を協議する。

 20年の夏季五輪の開催地は2013年のIOC総会で決定する。国内都市が立候補する場合、日本オリンピック委員会(JOC)が2010年に絞り込むため、両市はこの時期に本格的な検討の開始を決めたという。秋葉市長は13日、JOCを訪れ、検討委の設置を報告する。  夏季五輪をめぐっては、海外ではローマやドーハなどが2020年の開催地に名乗りを上げている。2016年の開催地に選ばれなかった東京は再挑戦の意思を明確にしておらず、国内では具体的な招致の動きは出ていない。


<解説>夢の道筋 市民に提示を

 広島、長崎の二つの被爆地による五輪招致の構想は、秋葉忠利広島市長と田上富久長崎市長も認めるように、「夢へのチャレンジ」を宣言した段階だ。

 今回の発表を「唐突」と受け止める市民は少なくない。秋葉市長は過去、議会などで何度も五輪招致を「夢」として語ってきた。だが、資金面などの具体的な課題、複数都市開催のアイデアについて、地元のスポーツ団体や経済界、県などと本格的に議論したことはない。

 両市は、国内候補地の絞り込み時期が来年に迫り、検討開始に踏み切ったという。背景には、オバマ米大統領の登場で一変した核兵器をめぐる国際世論もある。核兵器廃絶の目標期限とする2020年の五輪招致への挑戦自体が、「廃絶の流れを加速する」との見方で両市は一致する。

 ただ、実現へのハードルは高い。広島市はアジア大会に向けた投資が一因となり、2003年に財政非常事態を宣言した。田上市長は、昨秋に秋葉市長から構想を聞いた時「夢だと思った」と打ち明け、「(長崎には)ほとんど現状で五輪に使える施設はない」と話す。

 他都市に参加を要請し、複数都市開催を目指す手法は、財政的な負担を分かち合う狙いがある。東京も落選した五輪招致の常識を覆し、「平和の祭典」の舞台となることができるのか。夢を裏打ちする説得力を持った実現への道筋を、まずは市民に提示できるかどうかが問われている。

(2009年10月12日朝刊掲載)

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