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社説・コラム

社説 核安保サミット テロ対策だけでいいか

 冷戦終結後に新たな脅威となった「核テロ」を、どう封じ込めればいいか。頭を悩ませてきた国際社会に、福島第1原発事故は重い課題を突きつけた。

 53カ国の首脳らがソウルに集った核安全保障サミットは原発の安全管理を強化し、国際協調を深めることで合意した。

 事故防止もさることながら、テロリストの標的となりうる点を各国がより強く意識したのは間違いない。原発保有に伴う潜在的なリスクを浮き彫りにしたともいえる。

 2年前に続くサミットは「核なき世界」を掲げるオバマ米大統領の肝いりだ。核兵器や核物質がテロ組織に渡れば世界の平和を揺るがす―。危機感を共有し、対策を講じる場である。

 福島の教訓を生かすため、今回は原発の安全確保が主要テーマに浮上した。当事国の日本の役割が問われた格好にもなる。

 福島第1原発で核燃料溶融という事態を招いたのが、全電源喪失である。大津波の可能性を無視し、原子炉に冷却水を送るシステムのバックアップ態勢を怠った東京電力や政府の責任が厳しく問われている。

 ただ各国政府の関心事は日本国内と少し違う。原子炉が無事でも電源を止めれば大惨事を引き起こせる、との逆の見方もできるからだ。「テロのヒントを与えてしまった」と厳しく指摘する声があるのは無理もない。

 その点を十分に意識したからだろう。野田佳彦首相がサミットでまず触れたのが、テロリストの攻撃など「人為的な危害」への備えである。

 非常用電源の配備に加えて、「武装治安要員」を増やして巡視も強化する。原発で働く人たちをチェックする。そんな手だてを各国に約束した。

 日本国内の原発は警察のほか、陸上自衛隊などの重要な警護対象である。対策の強化はそれなりに意味があろう。

 ただ「テロの備え」と聞いて不安を抱く住民もいるはずだ。そんなリスクを背負う施設とは説明されていないからである。

 福島の事故の検証は道半ば。再稼働を含めて原発をこれからどうするのか、政府の方針も定まらない。そんな中で、首相がテロ対策を先行して唱えたことには違和感も拭えない。

 しかも国会日程の都合で首相はとんぼ返りし、ろくに各国首脳と会談せずじまい。当事者としてのやる気も疑われよう。

 核兵器も「拡散防止」では根本的な解決につながるまい。

 サミットでは核物質の出所を明らかにする「核鑑識」の強化などでも合意した。オバマ大統領の狙い通り、テロ対策が進んでいるのは確かだ。

 しかし肝心の核兵器廃絶への道筋は遠いままである。

 「持てる国」が自分のことは棚に上げ、持とうとする動きを抑え込もうとする。その構図には、やはり限界があろう。

 今回は議題と別に「衛星」を名目にした北朝鮮の弾道ミサイル発射問題を活発に話し合った。米中ロなどが曲がりなりにも「阻止」で一致できた。

 この際、小手先のテロ対策にとどまらず、核廃絶に向けたステップを前に進める場へと脱皮できないだろうか。

 核のリスクをゼロにするためには「持たない」ことが最大の処方箋である。それは原発についても同じはずだ。

(2012年3月28日朝刊掲載)

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