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社説・コラム

社説 東電の公的資金要請 意識改革が欠かせない

 東京電力が公的資金1兆円の資本注入を、政府の原子力損害賠償支援機構に申請した。政府は7月にも資本注入を実施する方針で、東電は実質国有化される。

 原発事故の賠償に必要として約8500億円の追加支援も併せて求めた。原発停止に伴う火力発電の燃料コスト増大もあり、経営が悪化。債務超過の手前だった。

 産業や生活に不可欠な電力を供給する公益企業である。原発事故の被害者に対する賠償を円滑に進めるうえでも、必要な措置であろう。

 とはいえ、公的資金による支援は、これで総額3兆5千億円に膨れあがる。廃炉や除染にも今後、巨額の費用が見込まれる。東電には企業体質の刷新や経費削減に不断の努力が一層求められよう。

 政府も東電の経営管理を進め、立て直しを急ぎ、公的資金を回収する道筋を国民に示す必要がある。

 しかし、東電の社長は資本注入申請後も「民間活力は大事」と発言。実質的な国有化に抵抗する姿勢を崩していない。

 本来、申請と同時に提出すべき「総合特別事業計画」もまとまっていない。今後10年間の経営改革を示さず、政府の議決権割合も決めることなく、資本注入を申請した格好である。

 極めて異例であり、国民の理解は得られるだろうか。原因の一つは新会長人事の難航だ。支援機構と東電は、早急に人選を進めねばならない。

 一方で東電はきのう、企業向けの電気料金を平均で17%値上げした。収益改善策の一つと位置付ける。だが、顧客に対する不誠実な姿勢が反発を招いた。

 4月以降も現行の契約期間を残す場合、満了までは値上げされないのに、十分周知していなかった。批判が高まったのも無理はない。

 東電は説明不足だったとして謝罪したものの、顧客が値上げに同意せず契約更新しない場合、一定期間後、電気の供給を止める可能性を示唆した。

 これに対し、枝野幸男経済産業相は「機械的に供給停止するのは社会的に許されない」として、柔軟に対応するよう行政指導した。

 家庭向けとは違い、企業などの大口向けの料金値上げに、国の認可は必要ない。しかし、東電が言うような「値上げは権利」ではあるまい。

 大幅な値上げは企業活動に与える影響が少なくない。とりわけ中小・零細企業には困惑や反発が広がっている。ものづくりの現場が疲弊し、雇用や景気はもちろん産業構造にもダメージとなりかねない。その鍵を握っている自覚があるのだろうか。

 自社の経営のみ優先させる姿勢は許されない。夏にも家庭向け料金を値上げする構えを見せているが、顧客に対する意識を根底から変えなければ、到底、納得は得られないだろう。

 値上げとともに、収益改善策の軸に据えられるのが原発再稼働である。東電の原発は3月に全て停止した。この夏の電力不足への懸念も聞かれる。だが原発再稼働を急ぐ口実とはならない。

 政府は需給見通しをたて、不安の解消に努めるべきだ。同時にエネルギー政策を示し、電力事業の改革を急ぐ必要がある。

(2012年4月2日朝刊掲載)

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