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社説・コラム

社説 大飯原発再稼働 安易な突破口にするな

 定期検査に入っていた関西電力大飯原発3、4号機を再稼働させようと、政府が動きを加速させている。

 野田佳彦首相はおととい、関係閣僚と再稼働に向けた初の会合を開き、福島第1原発事故の教訓を踏まえた暫定的な安全基準をつくるよう指示した。

 地元の福井県などが新たな基準を求めたのに応じた形だ。早くも週内に経済産業省原子力安全・保安院が新基準の原案を示し、福井県に再稼働への協力を要請するという。「前のめり」との批判は免れない。

 福島第1原発事故の後、定期検査を経て再び稼働した原子炉はまだない。このままでは1カ月後にも国内54基すべてがストップする。その前に何としても再稼働に目星を付けたい。他の原発を動かす突破口にもしたい―。それが政府の本音だろう。

 関電は発電電力量に占める原発の割合が2010年で5割。電力各社の間でも最高レベルだ。原発停止の影響は特に大きく、再稼働を目指す動機となっている。原子炉の型が福島第1とは違うことも、再稼働をしても問題ないとの判断を引き出したとみられる。

 政府は、原子力安全委員会が3、4号機について「安全評価(ストレステスト)の1次評価は妥当」としたのを受けて本格的に動きだした。

 ただ1次評価は、津波や地震に対する原子炉の安全上の余裕を机上で点検したもの。機器や配管が壊れるまで負荷を掛ける2次評価は行っていない。国は1次評価を再稼働の条件としているが、原子力安全委の班目春樹委員長は「1次評価だけでは安全性を評価するには不十分」と述べている。

 福島第1原発事故の国の調査報告書がまだ完成していない段階でもある。原子力規制庁の発足は、大幅に遅れている。再稼働に向けて同意を取り付ける範囲や、安全監視の体制もはっきりしない。手続きの順番が違うのではないか、との印象はぬぐえない。

 隣の滋賀県や京都府は、現時点での再稼働に対する反発を強めている。滋賀県は独自のシミュレーションを実施し、ひとたび事故が起きれば県内に放射性物質が拡散するとの結果を出した。再稼働の同意を求める自治体に含めるべきだと主張する。

 福島第1原発事故は、県境を越えて被害を広げた。枝野幸男経産相が、滋賀や京都にも理解を求めるとした上で、再稼働に同意が必要な地元として「ある意味で日本全国」と国会答弁したのも当然であろう。

 仮に安全対策を十分示したとしても、国の原子力政策の将来像を示さないままでは地元や世論の理解が得にくいことにも留意したい。

 少なくとも短期的には再稼働がやむを得ないというならば、脱原発依存に向けた具体的なビジョンも同時に示すべきである。そうでなければ世論は、再稼働をいったん許すことが、原発の将来的な固定化につながると考えるだろう。

 もちろん、夏場の電力需給が切迫する問題は無視できない。ただ、需給見通しをさらに精査するとともに、電力使用量のピークを分散させる工夫などを国民に示し、協力を求めるのが再稼働よりも先ではなかろうか。

(2012年4月5日朝刊掲載)

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