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社説・コラム

『言』 広島事務所の役割 被爆地市民と連携深める

◆カルロス・ロペス ユニタール本部長

 国連訓練調査研究所(ユニタール、本部スイス・ジュネーブ)が広島市中区に広島事務所を設けて5月で丸9年となる。アフガニスタン復興のための人材育成などに取り組んできた活動を今後どう発展させ、被爆地広島との協力関係をいかに深めていくのか。3月末に広島市を訪れ、湯崎英彦知事らと精力的に会談したカルロス・ロペス本部長(52)に聞いた。(聞き手は特別編集委員・田城明、撮影・高橋洋史)

 ―本部から見て広島事務所はどのような存在ですか。
 なくてはならない存在となった。1965年に設立されたユニタールの活動の多くは、平和問題に関与している。平和について考えるうえで広島以上にふさわしい都市はない。アフガニスタンの紛争地などからユニタール研修で被爆地を訪れた政府関係者らは、核戦争の破壊力と悲惨さについて学ぶだけでなく、廃虚から再生した街並みに希望を見いだす。彼らの多くは、帰国後も指導的立場で活躍している。大臣などの要職に就いている人もいる。

    ◇

 ―アフガン研修プログラムは素晴らしい取り組みだと思います。ただ、現地の治安状況は安定せず、成果が十分生かされているのだろうかとの懸念が残ります。
 その懸念は、私の来日に合わせてアフガン大使館が開いてくれた歓迎会に同席していれば消えたことだろう。会には21カ国の大使が出席した。ユニタール広島事務所が果たしてきた役割に感謝の思いを伝えるためだ。その多くは国として多額の金を使ってアフガン援助をしているが、ユニタール以上の成果はないという。というのも、われわれは国を立て直すための人材を育てているからだ。

 ―時間を要しても、こうした地道な取り組みが大事だと…。
 その通りだ。今ではこの研修プログラムへの参加希望者が増えており、50人の候補を選ぶのに頭を痛めるほどだ。

 ―財政が許せばイラクの政府関係者らにも研修プログラムを広げると聞いていましたが、見通しはいかがですか。
 広島県や広島市から財政支援を受け、とても感謝している。これまではイラクにまで手を広げる余裕がなかったが、ここにきて実現の目途がようやくついた。国際協力機構(JICA)がわれわれの取り組みに理解を示し、財政支援をしてくれることになったからだ。今年10月には、研修の一環で30人のイラク人研修生が広島にやってくる。

    ◇

 ―昨年11月に湯崎知事が打ち出した「国際平和拠点ひろしま構想」を評価していますね。
 平和構築のための人材育成などユニタールの活動と重なる部分が多い。広島の体験から学ぶ海外の研修生と、復興途上の彼らから学ぶ広島県民といった具合に、将来はプログラムの一部に組み込むことも可能だろう。政府高官らの軍縮・平和会議の実現には、そのイニシアチブを外部とどうつなげていくかが成功の鍵を握っている。

 ―ユニタールとして、この分野でどのような協力が可能ですか。
 われわれは研修プログラムを通じて世界中にネットワークを持っている。まず、このつながりを生かしてひろしま構想を広め、この地が平和を語るうえでいかにふさわしいかを伝えていきたい。

 ―広島市のNPO法人などと一緒に、被爆樹木の種や苗を海外へ送る「緑の遺産ヒロシマ」プロジェクトにユニタールも全面的に関与していますね。なぜですか。
 広島と世界が平和を希求していることを、その行為が象徴的に表しているからだ。すべての核保有国や国連機関のある都市などに被爆樹木が育ったなら、それ自体が貴重なメッセージになる。われわれのネットワークを生かすことで、被爆地市民との連携を深めたい。

 ―広島事務所の今後の課題をどう捉えていますか。
 広島県内の高校生を対象とした「ユニタール青少年大使」や、国際問題解決のための地元大学でのトレーニングなど地域に依拠した活動を充実させたい。ユニタールの国際活動が、平和を理念とした広島の国際化にもきっと貢献できるだろう。


カルロス・ロペス
 アフリカ西部のギニアビサウ出身。パリ第1大(パンテオン・ソルボンヌ)で博士号(歴史学)取得。母国の政府職員として研究、外交に従事した後、88年に国連開発計画(UNDP)に入った。ジンバブエ、ブラジル各常駐代表、開発政策局長などを歴任し、05年に国連事務総長室付政治担当官に就任。07年3月から現職。国連事務次長補でもある。フランス語など4カ国語に堪能。企画・開発の専門家として多くの著書がある。

(2012年4月8日朝刊掲載)

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