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社説・コラム

社説 北朝鮮の「衛星」 発射阻止へ外交努力を

 北朝鮮が「衛星」と称し、ロケットの打ち上げを強行しようとしている。

 実質的な長距離弾道ミサイルの試射にほかならないとして、国際社会は批判を強めている。

 約2カ月前の米朝合意で、長距離弾道ミサイルの発射を一時凍結することに合意したばかりだ。2006年と09年に北朝鮮が核実験をした際の国連安全保障理事会決議にも明らかに反する。平和目的だといくら強弁しても、外交上の信頼を失墜させるだけである。

 黄海側の発射施設で3段式ロケットの1段目が既に据え付けられたという。打ち上げは12~16日の間としている。

 13日には金正恩(キムジョンウン)氏が国家機構トップの国防委員長に就任するとの見方もある。15日は金日成(キムイルソン)主席の生誕100年。すべては故金正日(キムジョンイル)総書記の「遺訓」とし、「強盛大国」に進む年と位置付ける意図がうかがえる。

 ここで科学技術の高さを国内に見せつけ、後継体制の求心力も高めたいのだろう。

 小泉純一郎元首相と金総書記が02年に交わした日朝平壌宣言には「北朝鮮はミサイル発射のモラトリアム(一時停止)を延長していく意向を表明した」と明記してある。この宣言も「遺訓」のはずだ。現体制は、どう向き合うつもりだろう。

 国内の食糧難は深刻化している。膨大な開発費と国際的な孤立という内外の代償を払ってまで、打ち上げを強行しようとするのは理解に苦しむ。

 ミサイル発射になぜ国際社会がこれほど神経をとがらせているのか。核弾頭の小型化が組み合わされば、核武装国としての脅威が増すからである。アジアを不安定に陥れる事態は何としても避けねばならない。

 日本政府は北朝鮮包囲網に動きだした。中国を訪れている玄葉光一郎外相はきょう、日中韓外相会談で対応を協議する。

 独自の制裁措置については1年間延長を決めている。松原仁拉致問題担当相は記者会見で、拉致被害者の再調査などを念頭に「大きな決断をすれば前向きな対応が可能だ」と歩み寄りを促した。圧力だけでなく、対話の糸口を残したことは穏当な判断といえよう。

 北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射した09年と同様、政府はミサイル防衛(MD)による「国土防衛」の態勢を整えた。

 迎撃ミサイルを搭載するイージス艦3隻を、東シナ海と日本海に展開。地対空誘導弾パトリオットを沖縄本島と先島諸島、首都圏に配備した。

 打ち上げ失敗に備えること自体はやむを得ないとしても、危機をあおることは自重したい。

 そもそもMDは「ピストルの弾をピストルで撃ち落とす」と例えられるほど、開発途上の難しい技術である。カバーできる範囲も限られている。

 折しも航空自衛隊は航空総隊司令部を先月、米軍横田基地(東京都)に移した。併せて、MDを日米一体で運用するための拠点も新しく設けた。この機を捉え、両国間で運用実績を積む意図もありそうだ。

 ただ、撃ち落とす方策ばかりでなく、事前阻止にも力を注がねばなるまい。米韓中などと歩調を合わせ、ぎりぎりまで外交努力を続けるべきだ。

 国際社会を敵に回す行為の自制を強く求める。

(2012年4月8日朝刊掲載)

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