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社説・コラム

社説 食品と放射能 監視網強め安心支えよ

 東京電力福島第1原発の事故後、間に合わせで決めていた食品中の放射性セシウム規制値が今月やっと厳しくなった。

 自治体によっては昨年から、先取りした基準で学校給食の食材について線量測定に取りかかっている所もある。妊産婦とともに子どもにもたらす影響が大きいからだ。

 新基準は欧米と比べると格段に厳しい。輸入品だけチェックすればいい欧米と違い、日常的に汚染食品が出回りかねない被曝(ひばく)当事国となった日本の立場をあらためて思い知らされる。

 セシウム137の半減期は30年と長い。流通や小売りの業界などとも連携し、監視の目を多重で密なものにしていく工夫を求めたい。

 内部被曝や低線量被曝の影響については科学的にまだよく分かっていないのが現状だ。汚染されたものはできる限り遠ざけておくに越したことはない。当面は厳格な基準で慎重に対応するべきだろう。

 もともと食品衛生法には放射能汚染についての基準がなかった。緊急事態を過ぎた今、最も厳格な区分で暫定基準の20分の1まで、遅まきながらも規制を強めたのは当然といえる。

 ただ、守れなければ無意味だろう。文部科学省の放射線審議会が「厳しすぎる」と指摘したのも生産者が対応できるか、懸念してのことだったようだ。

 チェルノブイリ原発事故で汚染されたベラルーシやウクライナでは、野菜の規制値はさらに厳しい。日本も、原発事故で揺らいだ食の安全・安心を取り戻すきっかけと考え、前向きに取り組むべきではないか。

 生産段階から検査とデータの公開を徹底し、不安の芽を摘む努力が欠かせない。いわれのない「風評被害」を防ぐ意味でも大切なはずだ。

 青森から静岡まで17都県では既に、消費量の多いコメなどの食品や暫定基準値を超えた食品の検査が義務付けられている。

 とはいえサンプル検査では、すり抜ける心配が付きまとう。不足している測定機器や扱う人材の確保について国が支援し、チェックの網目をより狭める必要がある。

 農家が進んで検査を受けるようにするためには、基準値を超える線量が出た場合に備え、国や東電による補償制度も今後求められよう。

 同時に、測定で得たデータを生産現場に還元する体制づくりも怠ってはなるまい。

 ベラルーシでは区画ごとに農地の放射能汚染マップを作製。取れる作物がどの程度のセシウムを吸収しているか、データの推移も確認しているという。栽培する作目や品種を選ぶ営農指導に役立てている。

 それが日本の政府開発援助(ODA)による成果というのだから、わが国で生かせないはずがない。汚染土壌から作物に移るのを抑える方策を見いだし、農林水産業が基軸の被災地復興につなげてほしい。

 今月に入り、新たな基準値を超す山菜などが東日本で早速見つかっている。

 遠く離れた西日本の各地でも昨年は、セシウムを浴びた稲わらを餌にした牛の肉が店頭に出回り、一時混乱した。

 そうした教訓を踏まえ、場当たり的な対応とならないような監視体制を整えておきたい。

(2012年4月11日朝刊掲載)

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