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社説・コラム

社説 北朝鮮ミサイル失敗 核実験どう食い止める

 若き最高指導者の船出に合わせた「祝砲」のはずが、裏目に出たようだ。北朝鮮が人工衛星打ち上げと称して長距離弾道ミサイルを発射したものの、軌道に乗らずに空中分解した。

 日本領域に届くはるか手前であり、被害がなかったのは幸いである。とはいえ各国の度重なる中止要請を押し切っての暴挙であることは変わるまい。

 米軍は「テポドン2号だった」との見方だ。核ミサイル保有へとひた走る北朝鮮の野望が、あらためて浮き彫りになったともいえる。このところ核問題は解決への兆しも出ていただけに、残念極まりない。

 思わぬ失敗は、むろん北朝鮮にとって痛手だろう。

 朝鮮労働党第1書記と国防委員会第1委員長に就いた金正恩(キムジョンウン)氏の新体制に権威付けする思惑があったのは間違いない。海外メディアへの実験場公開にまで踏み切ったが、逆に恥をかいた格好だ。国家の技術レベルにも、疑問符が付いた。

 都合の悪いことは公表しないのが北朝鮮の長年の体質だ。ただ、今回は「失敗」を国内向けにもあっさり認めた。今は海外の報道はさまざまな形で伝わってくる。到底隠し通せないと判断したのかもしれない。

 もとより「世襲」への不満がくすぶっている。新体制の威信が低下し、内政の混乱につながる可能性も否定できまい。

 またも国際世論に背を向けた国に、どう対応すべきか。

 日米韓が非難し、断固たる措置を求めるのは当然だろう。たとえ人工衛星だとしても「弾道ミサイル技術を使ったいかなる発射も認めない」とした2009年の国連安全保障理事会決議に明白に違反するからだ。

 とりわけ2月にウラン濃縮一時停止と食糧支援検討で合意した米国は、面目を失った形だ。

 日本は送金規制の強化などを含め、新たな制裁を検討するという。一方、発射に反対していた中国は失敗を踏まえ、関係国に冷静な対応を求めている。必ずしも周辺国の足並みはそろっているわけではないようだ。

 まずは準備中と伝えられる核実験を、どう食い止めるかが問われよう。3年前のミサイル発射の際も翌月、核実験に踏み切っている。今回は対外的な瀬戸際戦術の意味合いに加え、国内向けの「名誉挽回」のためにも強行してくる恐れがある。

 暴挙を繰り返しても国際的に完全に孤立し、日々の食事に困る国民を飢えさせるだけ。その現実を、新指導者に自覚させる必要があろう。国際社会が一致協力し、対話のチャンネルも切らさずに硬軟織り交ぜて断念を迫るべきである。

 それにしても日本政府の対応の遅れはあきれるばかりだ。

 ミサイル発射の事実を国民に公表したのは米衛星の情報が入って40分も後。その間、自衛隊は慌ただしく動き、繰り返しニュース速報が流れていた。

 情報伝達の切り札「Jアラート」を作動させなかったのもいかがなものか。沖縄への自衛隊の大量動員をはじめ大げさにも見える警戒態勢を取りながら、国民に情報をいち早く届ける努力を怠ったとしか思えない。

 福島第1原発事故の教訓は、一体どこにいったのだろう。野田佳彦首相は北朝鮮を非難するばかりではなく、その点を猛省してもらいたい。

(2012年4月14日朝刊掲載)

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