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社説・コラム

社説 大飯再稼働の地元要請 安全性の懸念拭えない

 夏場に電力が不足するからとの理由で、原発を「安全」と判断する―。こんな拙速な理屈が通るのだろうか。

 枝野幸男経済産業相はきのう、福井県庁を訪れた。西川一誠知事とおおい町の時岡忍町長にそれぞれ、関西電力の大飯原発3、4号機の再稼働への同意を要請するためだ。

 2基については、野田佳彦首相らがおととい、新たな安全基準を満たしていると関係閣僚協議で最終確認した。

 ただ政府がいくら強弁しても、「再稼働ありき」で急ごしらえした安全基準ではないか。多くの国民は、そうした懸念を払拭(ふっしょく)できないだろう。

 枝野経産相が福井県を訪ねたのは、原発を再稼働させるには「地元の同意」が必要としてきた政府の方針に基づく。

 これに対し西川知事は「県議会とおおい町の意見を聞いて県の考え方をまとめる」と即答はしなかった。知事は同時に、電力の消費地である関西圏の自治体や住民の理解を政府が得るよう求めた。

 しかし、容易に進むとは思えない。

 ともに一部が大飯原発から30キロ圏内の京都府と滋賀県の知事は慎重な姿勢を崩していない。住民の安全を考えれば当然だ。

 関電の筆頭株主である大阪市の橋下徹市長らは、再稼働の前提として関電と政府に求める8条件を公表している。独立性の高い原子力規制庁の設立や、安全基準を根本的に作り直すことについては、支持する住民が少なくないだろう。

 政府は地元の同意が得られれば、閣僚協議で再稼働を最終判断する考えだ。

 ところが、その「地元」がどこなのか線引きがあいまいになっている。さらに、地元の「同意」と「理解」の違いについても明確な説明を避けている。

 政府は大飯原発の再稼働が必要と判断した理由に、ことし夏の電力不足を挙げる。枝野経産相は再稼働できない場合は、関電管内の企業や家庭に20%超の節電を要請するとも明言した。

 だが本当に電力は足りないのか、疑問を抱かざるを得ない。

 関電と政府はこう試算する。原発を再稼働せず火力発電などで賄った場合、一昨年夏並みの猛暑になれば電力使用ピーク時の供給力は18・4%不足する。暑さが昨年夏並みの想定でも5・5%足りない―。

 ところが細かく見れば、昨年夏並みで電力が不足するのは12日間の計58時間という。ピーク時の電力使用を前後の時間帯にずらす対策を取るなどすれば、しのげるのではないか。

 関電は昨冬の電力需給でも最大8・0%の不足に陥ると予測していたものの、比較的余裕を持って乗り切った。住民の節電努力もあったためだろうが、需要をかなり多めに見積もっていたとみられても仕方あるまい。

 政府も関電も、もっと精密に電力需給の見通しを詰めてもらいたい。試算の再検証やピークシフトの方策の検討を、第三者の専門家に委ねる方法も考えられるだろう。

 枝野経産相は、再稼働しない場合に電気料金が値上げとなる可能性も口にした。いたずらに住民の危機感をあおる物言いはいかがなものか。何より「安全」を政治家が判断することに、違和感が拭えない。

(2012年4月15日朝刊掲載)

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