社説・コラム

　鬼ごっこは禁じます―。米国東部の小学校でびっくり仰天のお触れが出たと、本紙の海外リポーターが夕刊で伝えていた。タッチする手のやり場によってはセクハラになるのだとか。エープリルフールのたぐいかと思えば、どうやら大まじめらしい▲子どものいざこざに保護者どころか、弁護士が口を出すお国ならではだろう。それなら「影踏み」にすれば、と言葉を返すわんぱくは現れないものか。大人の横やりをはね返すのも遊ぶ妙味のはずだが▲福島県では、放射線という見えない「鬼」に子どもが追い回されている。校庭で過ごすのは日に３時間までとの注意書きが先ごろやっと、一部の小中学校で外された。ただ、遊びに行っておいで、と背中を押す気になれない家庭もあるようだ▲震災後、大人並みに肩こりや便秘を訴える小学生が増えているという。育ち盛りに夢中で遊べず、体や心が悲鳴を上げているに違いない。１キロ足らずの道で息が切れる子を案じる投書も、地元紙で見かけた▲厄介な「鬼」のタッチに四六時中、気をもむ日々は察するに余りある。「鬼は隅」と追いやる除染はこれからだ。何のためらいもなく遊べる陣地を広げてあげたい。

（２０１２年４月１８日朝刊掲載）