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社説・コラム

社説 避難区域見直し 古里再建 現実的対応も

 東京電力福島第1原発事故の避難区域を放射線量に応じて3区域に再編し、住民の帰還を支える動きが始まっている。

 今月1日、警戒区域と計画的避難区域が福島県田村市と川内村で解除されたのに続き、南相馬市でも16日、実施に移された。再編後は避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域―の区分になった。

 この2市1町では警戒区域だった地域へ1年ぶりに自由に立ち入り、自宅の後片付けをする姿、亡き人を思って手を合わせる姿が見られた。荒れ果てたわが家を目の当たりにした人たちの心痛はいかばかりか。

 それを思うと、東電の事故処理と廃炉への責任はいっそう重大だ。第1原発がある浜通り地方では1年たっても余震が収まらない。4号機の使用済み燃料プールをはじめ施設に影響しないか、今月1日の震度5弱の地震でも不安を募らせた住民は多かっただろう。

 警戒区域ではインフラの復旧や除染が進まず、学校や病院の再開のめども立っていなかった。警戒区域から解除準備区域に移行しても、住民の帰還までの道のりは遠い。

 解除準備区域には自由に出入りできるようになったが、泊まり込みはできない。地域外の不審者が出没する恐れがあり、治安・防犯対策は急務だ。「泊まれないなら、警戒区域のまま通行証で入れるようにした方がよかった」という声さえある。

 消火栓が壊れて使えない場合は火災の発生が怖い。道路の崩壊・陥没による不便さや給水制限を強いられる。野生化した家畜やペットも不安の種だろう。

 南相馬市では下水道が使えず、浄化槽も汚泥の状態の確認が必要という。家庭ごみも仮置き場ができるまで敷地内や屋内で保管しなければならない。

 しかも子育て世代や働き手の世代の流出が深刻で、1年間で市職員の1割が早期退職した。市は任期付き職員の採用条例を制定するなど手を打つ。

 病院の看護師も足りない。福島が直面する共通の危機でもあり、被災地以外の自治体、医療機関、大学、NPOなどが人材確保で支援できないか。

 一方、避難区域の再編は地域コミュニティーに分断をもたらす、という懸念が当初からあった。双葉町の井戸川克隆町長は「帰るときは一緒。帰るところと帰れないところがあると町が成り立たない」と語る。

 このため、複数の町の間では、いわき市など別の自治体に受け入れてもらい、「仮の町」や生活拠点をつくろうという計画が浮上している。

 「仮の町」であるからには、いつか戻る見通しを立てなければならないが、現実には何年かかるか分からない。その土地から離れても「古里」は守ることで希望をつなごうとする思いはよく分かる。

 国は区域再編とセットで除染推進、インフラ復旧、賠償、長期避難者支援、雇用・産業振興などを骨子にした総合支援策を検討している。しかし、最終的には個々の自治体の判断を尊重すべきだろう。

 「仮の町」の構想も視野に入れ、具体策を急ぐ必要がある。戻れない住民、特に若い世代の将来をどうするか。現実的に対応するよう、国は責任を持ってもらいたい。

(2012年4月18日朝刊掲載)

 

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