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社説・コラム

社説 尖閣の購入宣言 一石投じたのはいいが

 唐突な「宣言」には驚かされた。石原慎太郎東京都知事が、沖縄・尖閣諸島を購入する意向を明らかにした。島の持ち主とひそかに交渉し、合意を得たという。

 中国は尖閣の領有権を一方的に主張し、日本との確執はここにきて再びエスカレートしている。「政府にほえ面をかかせてやる」と石原知事。民主党政権に対中外交を任せてはいられない、との気分なのだろう。

 一石を投じたのは間違いない。ただ、新党結成に向けたパフォーマンスではないかとの見方もある。そもそも自治体が外交政策の根本に介入し、住民の税金を投じることが妥当なのかどうか。まず、その議論をしてからの話だろう。

 もとより尖閣が日本の領土であることは、歴史的にみても揺るがない事実である。

 中国と台湾が領有権を主張し始めたのは、周辺で海底石油資源が確認された1970年ごろからだ。本来なら議論の余地などない話である。

 「領土問題は存在しない」というのが日本の一貫したスタンスだ。ただ72年の日中国交正常化とともに、尖閣問題は事実上の「棚上げ」に。互いに声高に主張しないことで、摩擦を避けてきた経緯がある。

 ところが経済成長の波に乗り、新たな資源獲得に前のめりな中国が強気に転じてきた。周辺海域にも平然と出漁するようになり、2010年9月の海上保安庁の巡視船への漁船衝突につながったといえる。

 民主政権は中国との外交関係をきちんと構築できていない。この事件への対応がふらついたのもそのためだ。船長を逮捕したものの、中国側の対抗措置を受けて慌てて釈放した。しかも政府は「那覇地検の判断」と言い逃れる始末だ。

 こうしたあいまいな姿勢で中国側が増長したとの指摘もある。石原知事の「弱腰外交」批判に、うなずく国民もいよう。仲井真弘多沖縄県知事が一定の評価をするのも、政府への不信感の裏返しかもしれない。

 3月には日中双方が尖閣海域にある無人島に、新たな名称を付けた。中国の漁業監視船も周辺で挑発的な活動を繰り返している。いま政府の姿勢が再び問われているのは確かだ。

 石原知事の発言に触発されたかのように、野田佳彦首相は「あらゆる検討をしたい」と述べ、都に代わって買い取る可能性も示唆した。既に国が所有者から借りている実態があるとはいえ、こちらも唐突感がある。

 石原知事の発言に対しては中国外務省は「日本のいかなる一方的な措置も不法で無効だ」と敏感に反応した。仮に国として買い上げるとなれば、さらなる反発は必至だろう。

 東シナ海のガス田共同開発をめぐる懸案もくすぶったままである。経済的に切っても切れない両国関係が一気に緊迫化する恐れもある。  言うべきことは毅然(きぜん)として言うのは当然だが、首相は今後をきちんと見通した上で発言したようにも思えない。

 今年は国交正常化から40年。確たる対中戦略を練り直す時期である。経済や防衛も含め、あらゆる外交チャンネルの立て直しを急がねばならない。その手を尽くさない限り、尖閣の国有化を議論しても意味がない。

(2012年4月19日朝刊掲載)

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