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社説・コラム

社説 インドのミサイル実験 こちらの歯止めも必要

 弾道ミサイル発射は言語道断として、国際社会から厳しい非難を浴びた北朝鮮。同じようなことをしても、何も言われないのがインドだろう。

 先週、核弾頭を搭載できる長距離ミサイルの発射実験に、堂々と成功した。なにかと関係のぎくしゃくする中国の全土が、射程にすっぽり入るという。

 インド国内では「米国やロシアと並ぶミサイル大国になった」と自賛する声もあるようだ。こちらの方は、歯止めをかける必要はないのだろうか。

 今回打ち上げたのは、3段ロケットの「アグニ5」である。射程が5千キロと、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に匹敵する性能を持つ。2年後までの配備を目標とする、というから物騒な話である。

 既に80~100個の核弾頭を持つといわれる。このままならアジアでの核軍拡競争に拍車が掛かる恐れがあろう。

 インドは核拡散防止条約(NPT)に入っていない。国際社会の監視の目が届かないまま核戦力を保有し、1998年には隣国のパキスタンと競って核実験を強行した。被爆地にとっても大きな衝撃だった。

 ここにきてミサイルの長距離化に前のめりなのは、核兵器を含めた軍事力で優位に立っている中国へのけん制であることは間違いあるまい。

 インド側は「自衛のため」と主張するものの、これによって緊張が高まれば、中国の核軍拡の口実にも使われよう。「核なき世界」の潮流に逆行することはいうまでもない。

 なのに国際社会がインドの動きに目をつぶっているのはどうしたことだろう。

 前回の印パの核実験の際、国連安全保障理事会は核実験と弾道ミサイルの開発をしないよう求める決議を採択したはずだ。北朝鮮を非難するのなら、もっとインドに対しても強い姿勢で臨むべきではなかろうか。

 民主主義国であり、核兵器やミサイルの開発技術を拡散させてはいない。それが米国をはじめとする西側諸国がインドに甘い姿勢で臨む大義名分のようだ。現に今回のミサイル発射に対しても、正面から自制を求めた国はなかった。

 背景には、インドの著しい経済成長があるのは確かだろう。中国に次ぐ人口12億人の巨大市場は大きな魅力となる。機嫌を損ねるのは得策でない―。そんな各国の思惑がにじむ。

 2008年の米国に続き、フランスやロシアが、インドへの原子力協力を次々と「解禁」してきたことも見過ごせない。

 将来の原発ビジネスの需要を見越し、NPTに加盟しない国には協力しないという約束事を骨抜きにしてしまった。

 同様に日本もインドと原子力協力の交渉を続けている。福島第1原発事故後、凍結されていたが、原発輸出に前のめりな野田政権があっさり再開した。

 今のところ「核実験はしないと約束せよ」などの条件を出してはいるが、政府内には棚上げして早期調印を望む声もあるという。理解しがたい話である。

 少なくともNPTへの加盟を強く促すのが、被爆国としての責務ではなかろうか。

 インドの「核ミサイル」に沈黙を続けるなら、政府の核兵器廃絶の訴えは二枚舌だといわれても仕方あるまい。

(2012年4月23日朝刊掲載)

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