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社説・コラム

社説 東電「実質国有化」へ 誰のための救済なのか

 東京電力と原子力損害賠償支援機構は、福島第1原発事故に伴う今後10年間の経営改革の具体策、「総合特別事業計画」をまとめた。政府は1兆円の公的資金注入に応じる代わりに、議決権の過半を握る。

 東電は破綻処理されず、「実質国有化」されるという。聞き慣れない用語だが、つまり「公的資金による救済」である。

 しかし、救済されるべきはまず、原発事故の被害者たちである。はじめに再建ありき、ではなかろう。この点、政府と東電は肝に銘じてほしい。

 今回の事業計画は前提として、家庭向けの電気料金10%値上げや柏崎刈羽原発(新潟県)の2013年度中の再稼働などを挙げている。

 しかし、大口向け電気料金値上げでは、西沢俊夫社長の「値上げは権利」発言もあって批判を浴びた。家庭向け値上げがさらに反発を受けるのは必至だ。消費者庁は勧告も念頭に、申請には厳正に対処するという。

 柏崎刈羽の再稼働を持ち出すのもどうだろう。関西電力大飯原発(福井県)でさえ批判にさらされる中、事故の当事者が何を言い出すのか、疑問に思う声が出ても不思議はない。

 確かに運転停止した原発に替わる火力発電の燃料コストは電力各社に重くのしかかる。東電と原発を持たない沖縄電力を除く電力8社のうち7社が、火力燃料コストの増加が主因で最終赤字に陥った。原発再稼働頼みに傾きがちである。

 しかし、柏崎刈羽は中越沖地震で沖合海底の活断層が判明した。福島の事故の原因究明も終わっていない。エネルギー基本計画の見直しの中で原発の位置付けも決まっていない。

 原発再稼働を再建の前提にするのは考え直すべきだ。

 東電には福島事故の賠償に加え、放射性物質の除染、廃炉という難題が待ち受ける。事業計画では10年間に3兆円を超す規模の経費削減を進め、費用捻出するという。それでも総費用が最終的にどこまで膨らむかは分からない。

 経営改革では外部から東電新会長に就く下河辺和彦氏の手腕が試される。

 社内組織の一部を分社化し、独立採算の「カンパニー制」を導入する。取締役の数も減らし、過半を社外取締役にする米国型の「委員会設置会社」に移行する。経営の透明性を高めようとする姿勢は評価できよう。

 ただ、リストラは「現場力」の維持との兼ね合いで進めることも必要かもしれない。

 日本の電力事業は発送配電一貫体制に裏打ちされた系統運用能力、停電を回避する能力の高さに特徴がある、とみる識者もいる。こうした現場力が廃炉などの工程に生かされる改革であってほしい。

 1950年代以降の日本は9電力(後に10電力)体制によって「公益民営」を貫き、高度経済成長に寄与してきた。東電の実質国有化はその戦後史で前例のない事態であり、電力業界は固唾(かたず)をのんで見守っている。

 今後は電力市場の自由化や発送配電分離の議論が現実化し、新規参入の門をたたく異業種企業の動きも活発化するだろう。

 しかし、まずは原発事故被害者の救済と事故の真の収束。そのうえでの電力改革、業界再編であってしかるべきだ。

(2012年4月30日朝刊掲載)

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