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社説・コラム

社説 日米首脳会談 TPP国内議論が先だ

 野田佳彦首相がホワイトハウスで日米首脳会談に臨んだ。

 オバマ大統領との共同声明は幅広い分野での協力強化をうたったが、内容は薄いといわざるを得ない。日本にとってはむしろ、いくつもの国内課題が浮き彫りになった形だ。

 象徴が環太平洋連携協定(TPP)であろう。野田首相は交渉への参加表明を見送った。国内で依然、賛否が割れている現状からすれば当然ではある。

 オバマ大統領は自動車、保険、牛肉の3分野で日本に市場開放の努力を求めた。それは、TPPに参加する場合の懸念が農業にとどまらないことをあらためて示したともいえる。

 首脳会談の内容を踏まえ、TPP参加の影響をしっかり分析する必要がある。その上で、参加の是非を議論し直すべきだ。

 この問題で野田首相が踏み込んだ発言をしなかった背景には、国内の議論がまとまっていないことに加え、民主党内の事情があるとの見方がある。

 消費税増税をめぐる党内対立は一向にやむ気配は見えない。同様に意見が分かれるTPP交渉への参加を無理に表明すれば、「政治生命を懸ける」としている消費増税の国会審議に影響が出る―。首相はそこを恐れたというわけだ。

 一方のオバマ大統領も、TPPでは圧力をかけざるを得ない理由があるようだ。

 日本の交渉参加は、米議会の承認が必要になる。自動車産業が集積するミシガン州の議員は日本の自動車市場の開放を要求している。

 日本の業界が説明する「自動車の関税はゼロで、輸入規制は存在しない」現状とは相反する主張だ。だが、米国への輸出台数に比べ、米国からの輸入が圧倒的に少ないのは事実である。

 11月の大統領選を控え、オバマ大統領は米議会の意向を無視できないだろう。市場開放という文言で数値目標などを押しつけられることはないのか。米国内では、農業は言うに及ばず、保険業界でも日本の市場開放を求める声が強いという。

 日本政府は先日、最大16カ国によるアジア広域の自由貿易協定(FTA)に向けた交渉を年内に始める方針を打ち出した。東南アジア諸国連合(ASEAN)が日中韓やインドなど6カ国に参加を呼び掛けている。

 こちらはTPPほど厳格な関税の撤廃は要求されない見通しだ。どの協定を選択すべきか、政府は国民に情報を公開し、十分に議論すべきだ。

 何より民意が重要なことは、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題も同様であろう。名護市辺野古への移設に懐疑的な米議会の意向を受け、今回の会談では現行計画推進を確認することはできなかった。

 沖縄県の民意を踏まえれば、辺野古移設がもはや困難であることは言をまたない。なし崩し的に普天間飛行場が固定化しても構わない米国側と、辺野古移設にこだわる日本側との温度差も浮き彫りになっている。

 ワシントンでの公式首脳会談は民主党政権では初めて。鳩山政権でこじれた日米関係を一定に立て直す機会になった面は評価できるかもしれない。

 しかし同時に、日米間の懸案解決には程遠いことも明確になった。野田政権の外交力も同盟深化の行方も、まだ見えない。

(2012年5月2日朝刊掲載)

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