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社説・コラム

社説 本紙きょう創刊120周年 「地域を結ぶ 心を結ぶ」

 きょう中国新聞は創刊120周年を迎えた。

 1892年5月5日、日刊「中國」第1号の紙面に載せた「中國宣言」がうたう。

 「政党なるもの、宗派なるものとは、わずかな関係も有しない。政府と人民の間に立ち、ただ良心の率いるままに千万人といえども往(ゆ)かんとす」

 臆せず、偏らずの姿勢を誓っての船出であった。それから120年。明治、大正、昭和、平成の世の激動を日々の紙面に刻んできた。

 節目を迎えた今、私たちは読者への感謝の念を胸に、新たな誓いを加えたいと思う。時代の道しるべとなり、地域の行方を照らす明かりとなるよう、報道に磨きをかけていくと。

 この間、休刊日を除き発行できなかったのが2日ある。1945年8月7、8日付だ。

 米国の原爆投下により、社屋は炎上した。当時の社員のほぼ3分の1に当たる114人が犠牲となった。

 残された社員たちが廃虚での再建を急いだのは、内外のニュースをいち早く読者に知らせると同時に、広島復興の先陣を切ろうとする使命感だったと社史は伝える。

 むろん戦時中の翼賛報道を率直に反省しなければならない。再出発に当たり「世界平和の確立」「民主国家の建設」「地方文化の高揚」の三つを社是に掲げたゆえんだ。

 その表れが、営々と続ける原爆平和であり地域報道である。被爆者と声を合わせて核兵器廃絶を訴え続け、記者は中国山地や瀬戸内海の隅々を歩いてきた。インクの匂いが立ちのぼる紙面を届けてきた。

 関連事業も含め、地域と内外を結ぶ「窓」としての地方紙の役割は今後も変わるまい。ただ時代は再び曲がり角にある。

 欧州の信用不安がたちまち円高に直結するように、経済・金融のグローバル化のうねりは負の側面があまりに大きい。投機マネーは国家財政だけでなく一人一人の暮らしも脅かし、もはや一国の力では御しがたい。

 そして世は格差社会であり超高齢社会に。若者は目標を見失い、政治はなすすべもなく立ちすくんでいるかのようだ。足元で地方の疲弊ばかりが進む。

 目を覆うわけにはいかない。ではどうするのか。成長神話に代わる答えを探りあぐねているときに起きたのが東日本大震災だった。家族や地域社会の絆をどう結び直せばいいのか。

 キーワードの一つは「安心・安全」であろう。災害が起きてからのあふれんばかりの報道だけでは事足りない。惨禍を防ぎ、減ずるための報道を日常としなければならない。

 これ以上のヒバクシャを生まないための報道も問われる。被爆体験を語り継ぐ営みこそがヒロシマの訴えにやすりをかけ、説得力を強めていく。

 何より安心・安全な社会を支える根幹は、互いを思いやる心にほかなるまい。それを育む主役は家庭であり、地域だ。

 私たちもコミュニティーの一員として、読者の思いと響き合う新聞づくりを期したい。電子新聞なども含めてニュースをいち早く伝え、地域の針路を読者とともに考えていきたい。

 創刊120周年のキャッチフレーズ「地域を結ぶ 心を結ぶ」に込めた意味がそこにある。

(2012年5月5日朝刊掲載)

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