×

社説・コラム

社説 「原発ゼロ」社会 首相はなぜ展望語らぬ

 北海道電力泊原発3号機が定期検査のため停止し、日本社会は「原発ゼロ」の日を迎えた。関西電力大飯原発の再稼働が世論の反対で立ち往生しており、42年ぶりに「原発のない夏」となる公算が大きい。

 電力不足への懸念は拭えていない。半面、この夏を乗り切れば恒常的な「ゼロ」への視界が開けるかもしれない。いずれにしても大切な節目である。

 ところが野田佳彦首相の肉声が聞こえてこない。エネルギー政策の腰が定まらない政府の実情を映しているかのようだ。

 原発の再稼働を立ち止まらせているのは、東京電力福島第1原発事故の衝撃だけではない。国民の間に不信と不安が積もりに積もっている。

 放射性物質の飛散状況をめぐって、国や東京電力の情報開示は後手、後手に回った。そうした対応の繰り返しや根拠に欠ける事故「収束」宣言が疑念ばかりを植え付けた。

 要となる原子力規制庁の発足さえ遅れたまま、急ごしらえの安全基準で首相は大飯原発の再稼働を目指した。前のめりの姿勢は不安に拍車を掛けた。信頼回復は並大抵でない。

 一方で、再生可能エネルギーの普及策は緒に就いたばかりだ。頼みの火力発電はコストや温室効果ガスなどの面でデメリットも大きい。原発の安全性を厳格に見極めた上で、必要最低限の再稼働を迫られる場面があるかもしれない。

 その場合でも欠かせないのは国が脱原発依存の道筋を示すことだ。一時的な再稼働が、なし崩しの原発依存へと後戻りしない。国民がそう確信できなければ、いくら安全策を講じようと納得しないだろう。

 今夏をめどに経済産業省の調査会が新たなエネルギー政策を議論している。2030年の時点で総発電量に占める原子力の割合をどうするか。選択肢の一つに、これまでを上回る35%の依存度まで掲げた。世論調査で8割に及ぶ「脱原発」の民意をどう思っているのだろう。

 明確なメッセージを政府が発信し得ていない。とどの詰まりは、それが原因とみられても仕方あるまい。

 経済界には電力不足を危ぶむ声が根強い。企業活動に影響しないか。節電が景気に水を差すのでは…。

 とはいえ、3・11以前に時計の針を戻すことはできまい。「原発ゼロ」社会を見据えて腹をくくる方が現実的だろう。

 昨夏、節電が意外とスムーズに進んだ家庭や企業もあった。再生可能エネルギーや節電に商機を見いだす動きは一層活発となるに違いない。

 電力会社にとっても正念場である。周波数の異なる東日本、西日本間の送電を拡大させるなど、日常的な融通の仕組みづくりを急いでもらいたい。

 関電は、仮に大飯原発が再稼働しても電力不足が生じると見込む。ゆとりのある中国電力管内でも節電を心掛ければ、融通できる幅が広がろう。

 国民や企業の努力に政府はどう応え、リードするのか。ここは野田首相自らが語るべきだ。

 就任時、子ども第一の「チルドレン・ファースト」を唱えたはず。くしくも、きのうは「こどもの日」。放射能が二度と幼い命を脅かさない国の針路を示してほしい。

(2012年5月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ