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社説・コラム

社説 仏大統領にオランド氏 EU緊縮路線に潮目か

 フランス大統領選の決選投票は野党社会党のオランド氏が制した。緊縮策や格差拡大に不満を持ち、「富の再配分」を求める有権者の支持を集めた。

 選挙結果を受け、連休明けの東京市場は株価が大幅反落し、円高ユーロ安が進んだ。欧州債務問題の先行きはより不透明になり、日本を含むアジア経済への波及も否めないが、これがフランス国民の選択なのだ。

 オランド氏は「国民はたった今、変革を選択した」と勝利宣言した。「オランドの勝利」というより「サルコジの敗北」とも言えよう。

 サルコジ氏は内相時代の強硬な治安対策で支持を集め、2007年の大統領選で初当選した。「もっと働き、もっと稼ごう」を掲げ、英米型の新自由主義路線を提唱した。外交政策も親米に傾いた。

 しかし、一連の国内政策は国民の不満を招き、今年に入ってユーロ圏9カ国の国債一斉格下げが起きた。「『格落ち』を招いた」と野党の批判を浴びたのは記憶に新しい。大きな痛手を受けたままの選挙戦だった。

 サルコジ氏はドイツのメルケル首相と手を結び、欧州債務危機対策に奔走してきた。「メルコジ体制」だ。欧州連合(EU)各国の財政規律を強める「新財政協定」合意を主導し、国内でも緊縮策を掲げた。

 一方、オランド氏は成長と雇用政策重視を掲げて新財政協定の再交渉を公約している。協定の早期発効は難しくなり、オランド路線はドイツとのあつれきを招きかねない。

 ただし、オランド氏が掲げた成長戦略は一つの流れとして見逃せない。

 EUではギリシャ総選挙でも反緊縮派が躍進し、与党は過半数割れの見通しだ。ドイツ主導に不満を持つ国がこの流れに同調する可能性もある。緊縮路線を見直して成長戦略に軸足を移すべきだという議論が、EU全体で高まりそうだという。そうなればフランスだけでなく、EU各国の国民の閉塞(へいそく)感を打ち破る新たな道が開けないか。

 半面、成長戦略は財政規律の緩みにつながりかねないとの警戒感もある。欧州中央銀行などの金融安全網によって、一時的に沈静化しているにすぎないのが欧州だ。今は熱狂している支持者との意識のギャップを埋める努力も必要だろう。

 オランド氏はまず、メルケル氏との関係構築をめざしているという。閣僚経験がないことを危ぶむ声があるが、欧州議会を含め、30年に及ぶ議会人の経験を生かしてほしい。

 両国は欧州発の危機回避に向け、協調してメッセージを発し、次の手を打つべきだ。

 「富の再配分」という争点の前にかすんだ感はあるが、仏大統領選史上、初めて原発が争点になった。オランド氏は国策である原発重視政策を「減原発」に転換するという。

 総発電電力量の8割を原発が占める「原発大国」だ。公約通り進めば、日本のエネルギー政策見直しにも影響を与えるだろう。その意味は小さくない。

 フランスは1960年から96年まで、サハラ砂漠と仏領ポリネシアで210回の核実験を行った核保有国でもある。被爆国日本としては政権が代わっても、被曝(ひばく)者の救済と核兵器廃絶を求めなければならない。

(2012年5月8日朝刊掲載)

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