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社説・コラム

今を読む 県立広島大副学長・生命環境学部教授 森永力 バイオマス普及の鍵

規制緩和し研究後押しを

 福島原発の大事故以来、再生可能エネルギーへの関心がますます高まっている。その中に持続可能なエネルギー資源としてバイオマスがある。食品廃棄物や家畜の排せつ物、下水汚泥などの廃棄物系バイオマス、農作物の食べられない部分や森林から出た残材などの未利用系バイオマスはエネルギーに変換できる。

 エネルギーとしては、バイオディーゼル燃料(BDF)、木質ペレット、熱分解ガス、炭などのように物理・化学的に変換したものや、メタンガスやアルコールの一種のバイオエタノールなどのように生物的に変換したものなどがある。

 日本政府は、バイオマスの活用推進に向けて、2002年に「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定し、09年には「バイオマス活用推進基本法」を制定した。さらに基本法を具体化するために10年に「バイオマス活用推進基本計画」を閣議決定している。

 その中で、国が20年までに達成すべき目標として①炭素量換算で2600万トンのバイオマスを活用する②600市町村においてバイオマス活用推進計画を策定する③バイオマスを活用する5千億円の新産業を創出する―としている。

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 しかし、昨年2月に総務省が発表した「バイオマスの利活用に関する政策評価」で、これまでのバイオマス政策の9割近くでその効果が見られず、多くの問題があると評価している。特に行政が主体で行われたバイオマス事業では大半は採算がとれず、停止や廃止が相次いでいるのが現状である。国の補助事業で行われた庄原市のバイオマス事業も止まったままで、参入した企業の補助金不正事件にまで発展している。

 庄原市は「木質バイオマスを利用したエネルギー生産・循環システムの調査事業」を03年から3年間実施。その結論として、06年にバイオマスタウンへの指定を農林水産省に申請した。

 庄原市が保有する膨大な森林(森林面積10万5千ヘクタール、森林率84・5%)を活用して、環境にやさしい街づくりを行おうという考え方であり、庄原市長の構想自体には大いに賛同できる。日本で利用可能なバイオマスの半分以上は森林にあるバイオマスであり、それらを利用する場合、まず思い浮かぶのは、燃料に活用できるバイオエタノールである。

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 残材をエタノールに変えるには、酸や酵素によって糖化し、つくり出した糖を発酵させる必要がある。しかし、効率よく糖化、発酵させる技術や、その廃液処理など、技術開発の課題は多い。また、森林から出た残材などを収集・運搬するシステムの確立は容易ではない。

 バイオエタノールの場合、米国やブラジルで、すでにトウモロコシやサトウキビから生産されているのは衆知のことであるが、1リットル当たり30~40円で作られている。国内で作っても100円以下で作らなければ競争力はない。過去にはベンチャー企業が天然ガスを主原料とするアルコール系燃料を1リットル88円で売り出したが、この価格に石油業界が反発。全国の自治体が軽油引取税を課税するようになり、価格は120円を超えてしまって結局、会社は倒産してしまった。これではエタノール燃料の普及はおぼつかない。

 ブラジルではエタノールの割合が0~100%の燃料を使った車を走らせることができる。その車は日本のメーカーが製造したものである。技術的には十分可能なのに、日本国内でエタノールを使った燃料で走る車の普及が遅れているのは理解に苦しむ。

 サトウキビや稲わらなど地産地消型の材料によるアルコール製造の研究や実証試験がバイオマスタウン中心に行われている。国はタウンにエネルギー特区を設け、特区内だけでも税金を低くしたり、エタノール100%の燃料で車が走れるようにしたりすれば生産も伸びるであろう。

 バイオマス利用は種々の規制を緩和し、研究開発が進むように誘導しないと絵に描いたもちで終わってしまうのではないだろうか。

県立広島大副学長・生命環境学部教授 森永力
 49年広島市中区生まれ。広島大大学院修士課程修了。広島大工学部助手、助教授などを経て97年県立広島大教授に。11年4月から副学長。日本菌学会副会長、日本きのこ学会会長などを務めた。専攻は微生物工学、応用微生物学。

(2012年5月8日朝刊掲載)

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