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社説・コラム

社説 シリア大規模自爆テロ 国連主導で内戦回避を

 中東のシリア情勢が一層、緊迫度を増している。

 首都ダマスカス南部の治安施設近くで10日、大規模な自爆テロが起き、少なくとも55人が死亡、372人が負傷した。国連の停戦監視団が活動するさなかに首都で発生した最大級の爆弾テロ。1カ月前、ようやくこぎつけた「停戦」は早くも崩壊の危機にある。

 国連安全保障理事会は自爆テロを「強く非難する」と声明を発表。アサド政権と反体制派など全当事者に対し、直ちにあらゆる暴力を停止し、停戦を守るよう求めた。

 だが政権、反体制派とも、テロを相手の仕業として非難を強めている。停戦状態の維持へ、国際社会は結束して、事態の沈静化を図る必要があろう。

 爆発は通勤時間帯の幹線道路沿いで起きた。1トン以上の爆発物を使ったとみられ、治安施設のビルや付近の住宅は外壁が崩落。子どもら市民も犠牲となった。

 国際テロ組織アルカイダとの関連が疑われるイスラム過激派グループが、インターネットで犯行声明を出した。スンニ派を虐殺しているアサド政権に対する報復だとしている。

 実態は不明だが、イラクなどからアルカイダ系勢力がシリアに侵入したとの見方は、米国などが指摘していた。

 犯行声明が事実とすれば、シリア情勢はますます混迷の度合いを深めていると言わざるをえない。既存の反体制派とは異なるイスラム過激派の台頭で、国連の仲介による停戦は、さらに困難になる恐れが出てきた。

 国連は早急に真相を突き止め、テロが続くことを防がねばならない。全面的な内戦状態に陥るのを何としても阻止すべきだ。

 シリアではアサド父子による独裁体制が40年以上続いてきた。父の後継として2000年に就任した現大統領は昨年3月、民主化運動「アラブの春」に触発されて始まった反体制デモを徹底弾圧した。死者は1万人を上回ったともいわれる。

 国際社会が有効な対策を打たない間に、事態を悪化させた感は否めない。今年2月、国連安保理にシリア非難決議案が提出されたものの、ロシアと中国が拒否権を行使し、否決された。

 アナン前国連事務総長の調停によって、ようやく停戦がなされたのは4月12日。国連は、非武装の要員からなる監視団を派遣した。だが、政府軍部隊は停戦合意に違反し、都市部にとどまり、小規模な衝突が続いていた。

 アナン氏は、停戦監視活動が失敗すれば「全面内戦に陥る」と警告。国連は現在の70人から今月中に300人へ要員の拡充を急ぐ。

 だが、今月9日には監視団の車列近くで爆弾が爆発するなど、監視団の安全確保が懸念されていた。

 大規模テロで、状況が大きく変わった今、監視活動継続の是非を含め、仕切り直しが迫られよう。反体制派の中には、事態収拾へ、外国の軍事介入を望む声まで出始めている。

 しかしもうこれ以上、弾圧やテロによる犠牲者を出してはならない。国連はアラブ連盟にも仲介を働き掛けるなど、早急に実効ある対応を探らなければならない。

(2012年5月13日朝刊掲載)

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