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社説・コラム

社説 沖縄復帰40年 現実を直視する機会に

 きょう沖縄県が本土に復帰して40年になる。県民が「基地なき沖縄」を願い続けたにもかかわらず、在日米軍基地の74%が集中する状況は変わらない。

 原爆の惨禍が身近な私たちは、唯一の地上戦に巻き込まれた沖縄に深い共感を抱く。だが基地の厳しい実態について、どれだけ知っているだろうか。

 現実を直視し、沖縄の人たちの視点に立って未来を考えていくきっかけにしたい。

 近代沖縄は常に本土から犠牲を強いられた。明治政府に併合された「琉球処分」。沖縄戦で県民の4分の1が犠牲になった。そして27年に及ぶ米国統治と返還―。これらは地元の人たちにとってひと続きの歴史であることを理解する必要があろう。

 おととし、歴代の政権が隠し続けてきた「歴史」を裏付ける文書が明るみに出た。

 例えば返還後も有事の際は沖縄に核を持ち込む密約を、佐藤栄作首相が結んでいた。日本政府が沖縄ではなく、米国にばかり向いていたことを浮き彫りにしている。その構図は今もまったく同じではなかろうか。

 その象徴が、米海兵隊普天間飛行場の問題だろう。

 住民の怒りが爆発した1995年の少女暴行事件を受け、米政府が返還を約束した。基地負担を軽減する、との理由で。ところが、名護市辺野古沖で代替施設の受け入れを求められた。沖縄の人たちが反対を続けてきたのは当たり前だ。

 ここにきて米側は継続使用の姿勢すら示している。野田佳彦首相はきょうの記念式典で「普天間の固定化を避ける」と表明するという。ならば辺野古案は白紙に戻し、民意に沿った解決策を考え直すしかあるまい。

 海兵隊に関しては沖縄に必ずしも駐留しなくてもいいとする考え方が米側にもあるようだ。この際、在日米軍全体が今のままでいいのかを検証し、「たらい回し」ではない負担軽減の道筋を付けるべきではないか。

 「沖縄は差別されている」という県民の声を重く受け止めなければならない。

 経済的な自立も不可欠だ。政府は復帰後40年間で、振興予算として約10兆円を投入した。基地を押し付ける見返りの意味もあったのは間違いない。

 多くが公共事業に投じられたが、活性化につながったとはいえまい。建設業界など一部の人が恩恵を受ける構図となり、自立どころか、国に依存する体質が強まってしまった。

 「沖縄の経済は基地がなければやっていけない」との本土側の見方もある。しかし今は成り立つまい。県民総所得に占める基地関連収入は、復帰当時の15%から5%に低下しているという。基地を返還させて跡地をうまく活用すれば、はるかに高い経済効果を生むことになろう。

 政府は先週、新たな沖縄振興策の方針を決めた。観光や情報通信、国際物流などの産業を育てるという。方向性はいいとしても、具体化はこれからだ。

 地域主権のモデルケースとして、これまで以上に権限と財源を移す必要もあろう。「一国二制度」に近い大胆な発想が求められるかもしれない。

 琉球王国時代はアジア交易の中継点となり、豊かな歴史を育んだ沖縄。「平和の島」に一歩でも近づくよう、私たちも努力しなければならない。

(2012年5月15日朝刊掲載)

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