×

社説・コラム

天風録 「沖縄の赤い花」

 赤い色がよほど鮮烈に映ったようだ。「クリスマス・ツリーの電飾装置のように、朝も夕も間断なくひらきつづけていた」。仏桑花(ぶっそうげ)が咲くさまを司馬遼太郎さんは「街道をゆく」沖縄編に記す▲洋名ハイビスカス。沖縄ではアカバナーと呼ぶ。青空の下、放つ色の強烈さ。島を訪れる人に訴えかけてくる。流れた血のおびただしさ、今なお続く島民の苦しみ…。「仏桑花真紅の声を挙げて基地」(山田みづえ)▲きのう沖縄の本土復帰40年。米軍普天間飛行場の移設を「最低でも県外」と高らかに約した元首相の姿も島にあった。今の首相は「固定化させてはならない」と強調したが、本土で引き取るとは口にしない。県民にはむなしく響いたことだろう▲沖縄民謡に「てぃんさぐぬ花」がある。ホウセンカの赤い花で爪先を染め、親の教えは肝に染めなさいと歌う。さらに「成せば何事もできること 成さぬ故にできないだけ」とも▲那覇を訪れるたびに戦争を顧み、沖縄とは、日本とは何かを考え込んだ司馬さん。「平静な気持(きもち)で夜をすごせたことがない」とつづる。首相もとんぼ返りせず、眠れぬ夜を明かしてほしかった。てぃんさぐぬ花を聞きながら。

(2012年5月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ