×

社説・コラム

社説 核燃料サイクル 現実踏まえ政策転換を

 原子力発電所を稼働させる限り、使用済み核燃料が生じる。どの国にとってもやっかいな問題である。

 日本はこれを「ごみ」ではなく「資源」と見なす政策を堅持してきた。すべてを再処理してプルトニウムを取り出し、核燃料として再利用する。「核燃料サイクル」だ。

 原発依存が大前提となる。だが昨年、福島第1原発事故が起こった。日本中で「脱原発」を求める声が強まり、その前提は大きく揺らぐ。

 そんな中、核燃料サイクルをめぐる政府内の議論が本格化してきた。内閣府原子力委員会の小委員会は今週、再処理の将来像について複数の選択肢と評価をまとめた。

 掲げた選択肢は三つ。これまでの「全量再処理」に加え、使用済み核燃料の一部を再処理して残りを地中に埋める併用案、再処理をやめる全量地中廃棄案である。選択を先送りする「留保」も併記する。

 最も安価なのは、全量地中廃棄案。将来の原発依存度が不透明な場合は、政策に柔軟性がある併用案が優れているとする。

 このまとめを基に、政府は関係閣僚が出席するエネルギー・環境会議で議論。夏にも新たな原子力政策を決める方針である。情報を操作したり小出しにしたりすることなく、国民に開かれた議論をしてほしい。

 その際は、核燃料サイクルが抱えてきた問題を踏まえるべきであろう。

 全量再処理の上、取り出したプルトニウムを高速増殖炉の燃料にする―。日本の核燃料サイクルの柱だが、曲折続きだ。

 青森県六ケ所村の再処理工場は高レベル放射性廃液を処分する作業などでトラブルが続発。建設費は2兆円を超えたが、本格稼働は遅れに遅れている。

 高速増殖炉の実用化も宙に浮く。昨年、「2050年」という旗すら降ろした。原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)も運転を止めたままだ。

 核不拡散の面からも国際社会からの風当たりは強い。使い切る当てもないまま、核兵器の材料になる猛毒のプルトニウムをため込んでいるからである。

 日本は非核保有国で唯一、商業規模の再処理方針を堅持してきた。再処理を依頼した英仏両国の国内保管分を含め約45トン。核爆弾5千発分に上る。

 さらに福島第1原発で過去最悪の事故が起きた。今月5日、定期検査で国内すべての原発が稼働を停止した。再稼働を急ぐ政府への世論の反発は根強い。

 政府が「脱原発依存」の民意を踏まえれば、巨費を投じて核燃料サイクルを続け、プルトニウムを増やす理由も見いだせなくなるはずだ。

 高速増殖炉計画の実現性が見通せない以上、もんじゅは廃炉とし、再処理からも手を引く決断をすべき時がきているのではないか。

 核燃料サイクルの見直しは施設が立地する地域の雇用や生活を直撃する。再処理を前提に使用済み核燃料を受け入れてきた青森県は反発する可能性がある。政府が責任を持って地元に説明した上で、使用済み核燃料を適正に処分する抜本策を検討する必要が出てこよう。

 既得権益や前例主義を排し、「フクシマ」後の現実に沿った政策への転換が求められる。

(2012年5月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ