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社説・コラム

視点2012 山口県上関町「地域ビジョン検討会」

住民も巻き込み将来像を

 中国電力の原発立地を前提とした地域づくりが揺らぐ山口県上関町は、原発財源がない場合とある場合の両方を見据えた地域の青写真づくりを進めている。全町議12人と執行部でつくる「地域ビジョン検討会」は昨年11月から協議を重ね、原発推進、反対双方の町議が率直に意見交換する場になりつつある。今こそ、町民も巻き込み、計画浮上から30年間続く対立の構図の転換につなげるべきだ。(久保田剛)

 「先が見えない。じっと耐えるしかないのか」。町内の110業者でつくる原発推進派団体「町商工事業協同組合」の浅海努理事長(77)は話す。町内で鮮魚卸業を営んでいるが、事業拡大のため購入した調理場設備は倉庫で眠らせたままだ。

財源不足試算も

 昨年3月の福島第1原発事故後、強まる脱原発の流れに上関町も直面している。中電は原発予定地の準備工事をストップ。中電や関係業者からの受注は激減し、町内では浅海さんのように「我慢」を強いられる動きが広がる。

 町が2011年度までに受けた原発関連交付金の総額は約56億5千万円に上る。町は、原発計画が完全撤回された場合、現在の主な行政サービスを維持すれば13年度以降に毎年度約4億円の財源不足が生じると試算。交付金を財源に11年度に予定した文化センターと農水産物市場の着工を延期し、規模を縮小するなどの対応に追われている。

 そんな中、設けられたのが地域ビジョン検討会だ。昨年11月22日に設置され、すでに4回の会合を重ねた。

 それまでは原発視察も一緒に行かなかった推進、反対両派の町議が「原発に代わる税収増へ具体的な施策を示してほしい」「豊かな自然を生かした地域振興を進めるべきだ」と率直な意見を戦わせ、地域振興策への考えを議論している。

 反対派の清水敏保町議(57)は「認識のずれはそう簡単には埋まらないと思うが、互いに真剣に議論するよい機会」と受け止める。

 ただ、検討会は「当面非公開」。結論を出す機関ではないとの位置づけだ。町総合企画課は「垣根を越えて本音で語り合う場。それぞれの立場前提の議論に限られるのは避けたい」と非公開の理由を説明。対応の難しさをにじませる。広報誌などでの情報開示は続けるという。

公開を求める声

 原発推進、反対両派がテーブルに着き、議論する動きは他地区でも出ている。浜岡原発(静岡県御前崎市)の全面停止を受け、名古屋市では両派の市民有志が3月、地域にふさわしい電力供給と消費の在り方を考える「中部エネルギー市民会議」を設立した。

 20日の会議では中部電力の幹部を招いて意見交換。2年をかけて方向性を見いだし、具体的なアクションプランを作成するという。

 呼び掛け人の一人でNPO法人職員庄司知教さん(33)は「互いの信頼関係を築き、一致点を一つ一つ積み重ねたい」とし、住民参加と公開の原則こそ成功の鍵とみる。

 浅海さんは住民代表の町議の役割を尊重しながらも「(検討会に)町民の声も直接反映できないか。漁業者や建設業者の代表が加わる場面があってもいい」。町全体で将来像を探る舞台づくりを期待する。


上関町地域ビジョン検討会
 町議12人(原発推進9、反対3)と町幹部13人、進行役を担う東京都内のコンサルタント会社社員の計26人で構成。推進派が推し昨年9月の町長選で3選を果たした柏原重海町長が昨年11月22日、初回会合と同時に発足させた。原発関連交付金の確保が不透明となったのを受け、苦しい財政状況でどう町を活性化させていくかなどが主題。今月21日の第4回会合までに総務、生活環境、産業振興課など議会事務局を除く7部署ごとに優先すべき事業や課題を挙げ、町議から意見を聞いた。

(2012年5月25日朝刊掲載)

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