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社説・コラム

社説 イランのウラン濃縮 紛争回避へ知恵絞る時

 イランの濃縮ウラン製造問題をどう解決するか。大きなヤマ場に差し掛かってきた。

 イランと、国連安全保障理事会の5常任理事国にドイツを加えた6カ国との協議が物別れに終わった。米欧が独自の制裁を発動させる6月末から7月初旬が間近に迫る。

 来月中旬にモスクワで開く再協議も決裂すれば、孤立感を深めたイランが核開発を加速させ、敵対するイスラエルが先制攻撃へといっそう前のめりになるかもしれない。抜き差しならぬ状況に陥る懸念がある。

 今こそ危機回避へ打開策を講じるときだ。イランは濃縮ウラン製造を即時放棄すべきである。その決断を促すよう国際社会は連携して知恵を絞りたい。

 条件次第で濃縮度20%のウラン製造停止に応じる構えを示唆してきたイラン。今回の協議で原油禁輸措置や金融制裁の見直しを強く求めた。一方、米欧はウラン濃縮の放棄が先だとし、見返りとして用意したのは医療用アイソトープや民間航空機部品の提供にとどめた。

 これでは双方とも譲歩できなかったのだろう。次回会合の開催地を引き受けるというロシアの「助け舟」で、何とか最終決裂は避けた格好である。

 気になるのは協議直後に国際原子力機関(IAEA)が発表した最新の調査結果だ。イランによる濃縮度20%のウラン製造・備蓄量が急増していた。

 濃縮度27%のウランも新たに検出されたが、こちらは「遠心分離器の精度上の問題」との見方もあり、イランが意図的に原爆開発へのステップを進めたと即断はできないという。

 とはいえ原発の燃料にするにはウランを5%程度に濃縮すれば済む。医療現場などで使われる濃縮度20%のウランが大量に必要だとも考えにくい。イランもロシアなどに生産を委託すれば事足りるはずである。

 ただ20%程度への濃縮作業が軌道に乗れば、そこから核兵器に使うため90%以上へと濃縮を進めるのは比較的容易で、数カ月あればできるともいわれる。

 国際社会の疑念が晴れないのはこのためだ。イランがあくまで軍事利用はしないと言い張るのなら、核兵器の起爆装置の実験をした疑いがあるテヘラン郊外の軍事施設についても立ち入り調査を受け入れるべきだ。

 原子力の平和利用を装い、秘密裏に軍事転用できることが問題を複雑にさせている。

 その平和利用は核拡散防止条約(NPT)が認める「非核兵器国の権利」である。しかもイランはNPTに加盟しているが、核兵器の保有が確実視されるイスラエルは未加盟である。

 こうしたちぐはぐな状況下で米欧やイスラエルが自分たちの核兵器を棚に上げてイランに圧力をかけても、おのずと説得力は限られよう。

 米欧はそこを自覚し、モスクワ会合では合意への道を真剣に模索してもらいたい。中東の緊張がさらに高まれば、原油の調達など世界経済に計り知れない影響が出る。軍事介入が往々にして泥沼化することは、イラク戦争で痛感したはずである。

 イランはウラン濃縮を放棄した上で、イスラエルや米欧に核兵器の削減・全面廃絶を迫ればいいではないか。中東の非核化を誠実に追求する姿勢こそが、国際世論の支持につながる。

(2012年5月28日朝刊掲載)

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