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社説・コラム

社説 国会事故調 初期対応 さらに検証を

 国会の東京電力福島第1原発事故調査委員会(国会事故調)はきのう、菅直人前首相から2時間半にわたって参考人聴取した。国政調査権の発動要請が可能な国会事故調。ヒアリングの一つのヤマ場だった。

 菅氏は冒頭、戦後日本は原子力平和利用の名のもと、原発立地の安全対策が不十分だったと指摘し、福島原発も例に挙げた。「原子力村」の言葉も用い、「原発は国策であり、事故を防げなかった最大の責任は国にある」と謝罪した。

 「事故は避けられなかったか」という根本的な問いに対する答えでもある。

 官邸の初期対応をめぐっては多くの疑問点が委員側から示され、逐一回答があった。未曽有の危機に直面した時、この国の政府最高首脳はどう対処すればいいのか。ただ、いずれのやりとりでも、一つの限界を痛感せざるを得ない。

 菅氏は原子力事故が起きた時、どのような権限が首相にあるのか、就任後に詳しく聞いたことがなかったという。「早くから東電との対策統合本部の体制にすればよかった。今の法律(原子力災害対策特別措置法)の不備だ」と述べた。

 反省の弁としては分かるが、政治家なら非常時の統治機構の問題として今後に生かさなければ意味がないだろう。

 前日の枝野幸男経済産業相(事故当時、官房長官)の発言と合わせると、事故直後の官邸と東電などの意思疎通の問題、危機管理の問題には看過できない部分が多々ある。それが事故の過小評価、ひいては原発周辺の住民への情報開示の遅れなどにつながったのではないか。

 たとえば枝野氏は炉心溶融(メルトダウン)の可能性について発表をためらったことはないという。半面、「原子力・安全保安院は同時に官邸にも情報を入れてほしい」という言い方もしたようだ。

 結果的には保安院などの情報発信にブレーキをかけた可能性はないだろうか。

 また、1号機を冷却する海水注入の「中断」や東電の「全面撤退」の動きなどをめぐり、菅氏の現場への過剰な介入が事故調で再三取り沙汰されているが、真相ははっきりしていない。政治家と東電の見解は真っ向から対立している。

 原子力村の閉鎖性が非常事態に影響したのか、菅氏の過剰な介入があったのか、さらに検証が必要だろう。国会事故調は引き続き東電の清水正孝社長(当時)を招致し、菅、枝野両氏らの発言と突き合わせてほしい。

 国会事故調は細野豪志原発事故担当相からの聴取を除いてインターネットの動画サイトで記者会見を含めて完全中継し、途中から英語の同時通訳も付けている。

 黒川清委員長は「この素材をもとにメディアもしっかり検証してほしい」と注文した。自戒を持って受け止めたい。

 原子力安全行政へ国民の信頼は今、地に落ちている。

 その原子力安全行政を一元化する原子力規制庁の設置関連法案は29日に国会審議入りする。事故の背景にある「安全文化の欠如」に注目する国会事故調の検証を、反映させる必要があるのではないか。「脱原発依存」を目指すエネルギー政策の将来像にも生かすべきだ。

(2012年5月29日朝刊掲載)

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