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社説・コラム

今を読む フランス平和市長会議顧問 美帆シボ オランド政権の減原発政策

自覚と行動 問われる国民

 フランスで17年ぶりに社会党の大統領が誕生した。オランド氏はドイツの言語と文化に精通した長年の政友エロー氏を首相に任命。まず新内閣の大臣を男女同数にし、大統領はじめ閣僚の給料を30%減らした。

 アメリカのオバマ大統領にも、今年末にアフガニスタンから撤兵すると宣言した。果たしてこの勢いで60の公約を実現するのだろうか。とりわけ原子力産業を売り物にしている国が減原発に踏み切れるだろうか。

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 オランド氏は選挙運動中、ヨーロッパエコロジー・緑の党(EELV)との合意を反映し、減原発を唱えた。原発技術のセールスに世界各国を奔走したサルコジ前大統領とは対照的だ。オランド氏はドイツ国境に近い最古のフェッセンハイム原発を閉鎖する、2025年に原発依存度を75%から50%に引き下げる、それに替わる持続可能なエネルギー政策を推進する―と主張した。

 そこで気になるのは新内閣の顔ぶれ。エロー首相は主要なポストをオランド派で固める一方、外相にはミッテラン時代に首相を務め、大臣職や外交経験が多いファビウス氏を起用。半面、大臣の経験がない30代の若い世代も増えた。

 その一人、EELVの党首セシル・デュフロ氏も希望通り入閣した。が、このエコロジストに与えられた任務は環境相ではなく、地域平等・住居担当相である。彼女は「住居問題でもお手伝いできます」と手を挙げていたが、これでは原発政策に手が出せないのではないか。

 では、誰が環境とエネルギー問題を担当するかと言えば、財務関係の専門家で上院議員のニコール・ブリック氏。環境問題と彼女の接点は大気と水の汚染につながるシェール・ガスの開発反対運動だ。フランスに多量にあり、国内企業トータルが米国企業と共同開発をもくろんでいる。

 だが、原発に関するブリック氏の意見を聞いたことがない。従ってオランド政権がどの程度の減原発を実行するか不明である。首相に起用されなかった社会党第1書記マルチヌ・オブリ氏はオランド氏よりずっと減原発派で、デュフロ氏とも親しいのだが…。

 もっとも、この内閣が継続するかどうかは6月の総選挙の結果いかんである。社会党が協力相手としたEELVは大統領選第1回投票でわずか2・3%の得票だったから、国民議会の下院議員選挙で躍進しない場合はオランド政権にも影響が出る。

 その場合、11%を超す票を得た左派戦線(共産党と左派グループ)との連合もあり得るだろうか。左派戦線は原発下請け労働者の正規雇用やエネルギー政策を問う国民投票を提案している。

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 敗北したサルコジ氏の保守党(UMP)は総選挙で大勝し、オランド政権下で保守党の首相を誕生させる連立政権を夢見ている。となれば、最古の原発の稼働延長と原発依存政策は継続されるかもしれない。

 しかし、実際にはエネルギー政策の変化がフランス社会で表れている。暖房効果を推進した省エネの建物は不動産としての価値が高まった。かつて原発建設で利潤を得ていた大企業ブイッグも持続可能なエネルギーを重視した建築物に力を入れ、エールフランスは建物に太陽パネルを使用している。

 風力発電も昨年に風力許容量が世界6位となり、13位の日本を大きく引き離した。また、日本の原発震災以後、仏政府が99%の株を持つ原子力企業アレバは実質的な雇用減少を余儀なくされている。

 26年前のチェルノブイリ原発事故の折、フランスの国境沿いで放射性雲が止まって他国に流れたという報道があったが、それは偽りだったことを国民は知っている。それゆえ日本の原発震災の報道も疑い、放射線測定器やヨウ素が品切れになる現象が起きた。

 政権がいかなる政党の手に渡ろうと、社会の流れを変えるのは国民の自覚と行動しかない。6月の総選挙はフランス国民が生きていくうえで何を優先するか、問われる選挙である。

フランス平和市長会議顧問 美帆シボ
 49年静岡県生まれ。早稲田大卒業。75年に渡仏。相模女子大客員教授、焼津平和賞選考委員なども務める。著書に「核実験とフランス人」など。

(2012年5月29日朝刊掲載)

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