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社説・コラム

天風録 「ミッドウェー」

 轟音(ごうおん)を上げ「鉄の鳥」が頭上を飛ぶ。地響きがして炎が立ち上った。それでもアホウドリは卵を抱き続けたと米国の歴史家は記す。海鳥が多くすむ太平洋のミッドウェー諸島。70年前の6月、この海域で日米決戦があった▲真珠湾から破竹の勢いだった日本海軍が、空母4隻を失う大敗を喫する。「こういう墓場が太平洋に増えるんでしょうなあ」。海底の空母で艦長らの亡霊が語る。半世紀ほど前の邦画「太平洋の嵐」にそんな場面がある▲にじむ諦念は、元海軍士官で僧侶でもある監督ならではだったか。江津市桜江町出身の松林宗恵(しゅうえ)さん。東宝の助監督から1945年、南方へ。部下を何人も失う。中でも母一人子一人の若い水兵を死なせたことを終生悔やんだ▲戦後、森繁久弥の社長シリーズで知られる一方、戦争ものも精力的に撮り続けた。激しい戦闘場面の合間には、故郷の美しい山河、田畑を映し込んだ。母親たちの方言や笑顔もいとおしい▲ミッドウェーの後、戦局は一気に悪化。海はさらに墓場と化した。大作「連合艦隊」も弔いの意が込められている。「お母さん」と叫び、零戦で突っ込む若い隊員が胸に迫る。あの水兵の名を使ってある。

(2012年6月7日朝刊掲載)

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