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社説・コラム

社説 オスプレイ岩国搬入 普天間配備こそ再考を

 米海兵隊岩国基地(岩国市)に来月下旬にも垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが運び込まれ、組み立てた上で試験飛行するという。  米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)への配備に先立ち、岩国で安全に飛行できることをアピールするのが日米両政府の狙いとされる。

 だが、おいそれと納得はできない。

 オスプレイは4月にモロッコで墜落事故を起こし、米兵4人が死傷した。米側は「機体に問題はない」とする。ならば、わざわざ岩国で飛ばす必要はないはずだ。

 配備に反対する沖縄の理解を求めるというのが日本政府の思惑のようだが、果たしてどうだろう。本当に沖縄県民の心情に寄り添うのであれば、普天間への配備そのものを見直すよう米側に迫るべきではないか。

 もともとオスプレイの普天間配備は今年10月ごろとみられていた。この時も岩国やキャンプ富士(静岡県御殿場市)などを候補地に本州での先行駐機が検討されていた。

 ところが米軍の運用上の理由で配備は前倒しとなり、現状では8月ごろの見通しである。この前倒しの際に見送られた岩国への先行駐機が、野田佳彦首相の指示で試験飛行として再浮上した格好だ。

 しかしそれで沖縄県民が理解するとは思えない。在日米軍基地の7割以上が集中する沖縄にとって、オスプレイの配備はまぎれもない追加負担だ。岩国で満足に飛行できたとしても、普天間周辺の住民には気休めにもなるまい。

 何より安全性への懸念が消えていない。モロッコでの事故について米側は「人為的ミスであり、機体に不具合はなかった」と日本側に伝えてきた。しかし、あくまで調査の途中経過であり、墜落原因の最終報告をまとめるのは年内いっぱいかかりそうだ。

 これに対し森本敏防衛相は、全容解明が済まなくても普天間への配備を容認する考えを示唆している。

 口では「沖縄の負担軽減」を繰り返す野田首相や閣僚たち。一方で普天間の滑走路などの補修でも日米両政府は合意した。なし崩し的に普天間の「固定化」が進む現状に、沖縄県民が不信感を募らせるのは至極当然のことだ。

 岩国にとっても、一時的な負担では済まない可能性が考えられる。

 米側がオスプレイの普天間配備を急ぐのは、海軍佐世保基地(長崎県佐世保市)に4月に配備した強襲揚陸艦と一体運用するため。そう指摘する専門家は少なくない。佐世保に近い岩国に今後も飛来する懸念はくすぶり続ける。

 くしくも日本政府は、岩国基地を軍民共用で使う「錦帯橋空港」の12月開港の方針を決めた。時を同じくして今回の試験飛行が持ち上がったことに違和感は拭えない。基地機能の拡張・強化が民間航空の見返りとして続く事態が許されないのは明らかだろう。

 山口県と岩国市に、県民や市民を危険にさらさない責務があるのは言うまでもない。オスプレイの安全性と国内配備の必要性について、県と市は正面から政府に問うべきだ。

(2012年6月10日朝刊掲載)

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