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社説・コラム

社説 原発再稼働と首相 脱依存の方針はどこへ

 原発事故を二度と起こさないだけの備えはあるのか。電力不足は本当か。そんな国民の疑問や不安に十分こたえないまま、野田佳彦首相は再稼働に突き進んでいると言わざるを得ない。

 先週、関西電力大飯原発(福井県)3、4号機を再稼働させる意向を示した首相。10日に東京都内で講演し、「(エネルギーの供給は)精神論だけでできるかというと、万が一ブラックアウト(大規模停電)が起きたら大変な悪影響が出る」などと語った。

 大飯原発の安全策が万全とはいえない以上、再稼働は避け、皆で節電に励んで電力不足を回避しよう―。このような考えは、単なる「精神論」というのだろうか。

 首相は、大飯原発の再稼働を「しっかりと安全性を確認した上での判断」だと主張する。ただ、「拙速」との批判をかわすだけの安全対策が提示できたとはいえまい。

 事故の際の拠点施設となる免震事務棟などは、2015年まで完成しない。原発の安全を担う政府の新たな規制組織も国会で審議中だ。

 そもそも、再稼働に向けて政府が策定した安全基準自体、福井県の求めに応じて急ごしらえした。これでは国民の不安は拭えないはずである。

 首相は先週の記者会見で、福井県と地元のおおい町への感謝の意を表すとともに、原発の重要性を強調することに終始した。国民や、原発事故により避難を強いられた福島の人たちではなく「原子力ムラ」を向いた発言としか聞こえなかった。

 百歩譲って再稼働が必要だとしても、国が中長期的には脱原発へ進むという展望を語って初めて、再稼働に対する国民の理解が広がろう。

 ところが首相は記者会見で、新たなエネルギー基本計画を念頭に「政府として選択肢を示し、国民との議論の中で8月をめどに決めたい」と述べるにとどめた。

 経済産業省の総合資源エネルギー調査会で、2030年の原発比率をめぐる議論を進めた。小委員会では0%、15%、20~25%、「数値なし」の四つの選択肢をとりまとめたが、いまだに政府の姿勢が見えてこないのが気になる。

 本来、原発再稼働の是非はエネルギー基本計画を踏まえて決めるべき問題である。

 記者会見にしても、福井県の西川一誠知事から「原発は必要」と表明するよう、繰り返し求められたのが理由だった。

 地元の了解を何としても得たいとの焦りがにじむ。西川知事が再稼働に同意し、野田首相と関係3閣僚が再稼働を正式決定する考えだ。

 もともと首相自身は、昨年の就任時に「寿命が来たら廃炉。新規は無理、というのが一つの基本的な流れ」とし、段階的な脱原発依存への見通しを語っていた。その姿勢が大きく後退したのは明らかだ。

 自らの言葉も、現実を踏まえない「精神論」だったというのだろうか。脱原発依存は、福島第1原発事故の教訓を踏まえ、二度と同じ事を繰り返さないという決意から引き出した理念のはずである。原発再稼働に対し、民主党内でも衆参両院で100人以上が反対の意を表していることを重く受け止めるべきだ。

(2012年6月12日朝刊掲載)

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