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社説・コラム

社説 大飯原発の再稼働決定 この夏限定 なぜできぬ

 安全対策の不備が分かっていながらの見切り発車だ。国民の不安は消えていない。

 野田佳彦首相はきのう、関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の再稼働を認めた。この日、西川一誠知事が官邸を訪れて同意を表明したことで、機は熟したと判断したようだ。

 「原発ゼロ」の期間を最小限にしたい政府と、地元経済への影響を抑えるため早期の再稼働にこぎ着けたい福井県。あうんの呼吸でシナリオ通りに進めたかのようにもみえる。

 政府や関西電力は、再稼働させなければ夏場に深刻な電力不足に陥り、大停電(ブラックアウト)も起きかねないと繰り返してきた。

 仮に需給見通しがその通りだとしよう。ならば、この夏のピーク時に限って原発を動かすという方法も考えられるはずだ。ところが不思議なことに、政府や関西電力が真剣に検討した形跡は見当たらない。

 首相は8日の記者会見で「豊かで人間らしい暮らしを送るには安価で安定した電気が欠かせない。原子力発電を止めたままでは、日本の社会は立ち行かない」と力説した。

 しかし安心・安全を抜きにして、豊かで人間らしい暮らしがあり得るだろうか。

 関西電力は原発への依存度が高い。裏返せば、化石燃料への依存を下げる努力を原発以外の方法では講じてこなかったと言えなくもない。

 そうした電力会社にとって、原発の再稼働は経営面でもプラスに働くだろう。首相の発言はこうした実態を覆い隠し、国民の暮らしや日本全体のエネルギー安全保障問題とすり替えているようにも聞こえる。

 つまるところ、政府が夏場限定の再稼働としないのは、「大飯の次」をにらんでいるからではないか。それは単なる勘ぐりでもなさそうだ。

 首相は大飯原発について「安全対策は確保された」「福島のような事故は決して起こさない」と言う。

 だが口先だけの約束に聞こえてならない。実際に防潮堤や免震重要棟、フィルター付きベント設備などの重要な施設はまだ整っていないからだ。

 これらの対策が完了するまで地震も津波も起こらないというのでは、福島第1原発の事故以前の「根拠なき安全神話」に逆戻りしたと批判されても仕方ないだろう。

 政府は事故の際の防災重点地域を半径30キロまで広げることも決めたが、具体的な避難対策もまとまっていない。

 一部が30キロ圏内に含まれる滋賀県や京都府の知事も、この夏限定の再稼働を求めてきた。しかし福井県の西川知事は「期間限定などスーパーの大売り出しではない」とこれを一蹴している。自治体間の溝も浮き彫りになっている。

 首相は大飯3、4号機以外の再稼働については「個別に安全性を判断する」とする。

 しかし首相が今回示したのは、安全性と経済性をてんびんにかけ、最後は経済性を選択する姿勢だったと言えないか。経済界や「原子力ムラ」の声に動かされた印象が拭えない。

 なし崩し的に原発の再稼働を進めるために「安全神話」をよみがえらせる。これでは福島の教訓は骨抜きになってしまう。

(2012年6月17日朝刊掲載)

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