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社説・コラム

天風録 「漆喰の出番」

 「お石灰(せっかい)探偵団」。そう自称する写真家がいる。大分県の藤田洋三さんだ。土と藁(わら)と石灰。つまりは日本の自然の素材に由来する手仕事を探し求め、中国路にもひょっこり姿を見せる。つかず離れずの、古い友人みたいに▲頼まれもしないのに撮りためた写真と軽妙な文は「世間遺産放浪記」と題した2冊に仕上げた。「世界遺産」の誤植にあらず。「民の仕事は常に無視されてきた」との思いを造語に込めた▲そんな自然素材で練った壁材の漆喰(しっくい)で、水に溶けたセシウムが99%以上除去できるという。近畿大工学部のチームがもたらした朗報。ゼオライトを使い、広島ゆかりのカキ殻成分も調合して従来より強度や耐水性を高めた▲「嫁がくる壁の塗り替えなどむかし」(落合惣太郎)。川柳で世を嘆いた左官もいたが、風土が培った技は案外滅びない。「広島の大学に身を置く者として、福島のお役に」と開発者の森村毅さん。汚染水ろ過やセシウム封印施設の建材に生かせるとか▲そういえば、漆喰壁の家や蔵は夏でも涼しく感じられる。先人は節電のヒントも教えてくれる。原子力ムラの人たちに一度、「ひやり」ならぬ、ひんやりを体感してもらいたいものだ。

(2012年6月18日朝刊掲載)

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