×

社説・コラム

社説 原子力規制委発足へ 安全と独立貫く「番人」に

 やっと、である。原発の安全規制を新たに担う原子力規制委員会が9月までに発足することになった。民主、自民、公明3党の協議を踏まえた設置法がきのう成立した。

 国民の安全を第一とする使命を忘れず、出直しのスタートを切ってもらいたい。

 もともとは4月に発足しているはずだった。大幅に審議が遅れたのは、「原子力規制庁」を環境省の外局と政府案が位置付けていたからだ。規制委の独立性が保てるのか、との疑問符が付いたのは無理もない。

 取って代わられる原子力安全・保安院はこれまで原発推進役の経済産業省の下に置かれ、電力業界との癒着やなれあいも浮き彫りとなっている。

 修正協議では結局、公正取引委員会と同じ国家行政組織法3条に基づく独立性の高い組織に。規制庁は規制委の事務局として位置付けられ、政府案とは主従あべこべとなった。

 原発の推進と規制とがない交ぜだった反省から、経産省や内閣府にまたがっていた仕事は一元化する。とはいえ、組織上の矛盾が解けても「仏つくって魂入れず」となっては困る。

 進路を左右する5人の委員は、衆参両院の同意を得て首相が任命する。

 おととい公表の科学技術白書が図らずも指摘している通り、東京電力福島第1原発の事故後、「科学者や技術者に対する国民の信頼低下」は著しい。

 見識や判断力はもちろんのこと、政官業の「原子力ムラ」と一線を画した人物でなければ、国民は納得しないだろう。電力業界からの寄付などの公開を徹底する仕組みも欠かせない。

 独立性にこだわるあまり、密室審議や情報の非公開につながっては元も子もない。審議の過程をガラス張りにする努力や説明責任には十分、意を用いるべきだ。

 ここへきてのスピード採決には、自公両党の対案を丸のみしてでも原発の再稼働へと政府が急いだ感も否めない。与野党全体の議論は尽くされたのか、首をかしげる点がいくつかある。

 原発の運転期間を原則40年とする規制強化策が盛り込まれたものの、見直しの権限は規制委に託してしまった。これでは委員の人選と判断次第で40年規制が骨抜きになりかねない。

 初期の原発では設計寿命の目安を30年としていた。福島第1原発の1号機は、まさに40年を超えていた。老朽原発への不安は今も拭えない。

 原子炉事故の対応に関し、規制委の決定を覆す指示権を首相に認めないとしたのもどうか。福島の事故で当時の菅直人首相の介入が混乱を広げたとする自公の主張に沿った。

 首相は自衛隊や消防に対する出動要請の権限を持つ。住民避難の指示を含めて危機管理を考えれば、合議を基本とする規制委に間髪入れぬ判断が可能なのかどうか。運用までに一層の検討を加える必要がある。

 設置法に「安全保障に資することを目的とする」と盛り込んだ点も気に掛かる。3党による提案即日の採決に、他の野党は真意をただす間もなかったと聞く。政府の説明を求めたい。

 規制委が顔を向けるべき先は国民にほかならない。福島の教訓を胸に、原発の「番人」役を貫いてほしい。

(2012年6月21日朝刊掲載)

年別アーカイブ