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社説・コラム

天風録 「沖縄への「高配」」

 沖縄県民かく戦えり―。米軍と激しい地上戦を交えた大田実海軍中将が、玉砕を覚悟して発した電報はつとに知られる。本土にいる上官に宛て、こんな嘆願で結んだ。「県民に対し後世特別のご高配を賜らんことを」▲きのう沖縄慰霊の日。現地での式典に臨んだ野田佳彦首相は、この電文を引いてあいさつした。多大な犠牲を強いた県民に、心からの鎮魂ではあろう。だとしても「高配」を持ち出したことには違和感が拭えない▲今も在日米軍専用施設の74%が集中し、あの戦と同じく本土の防波堤であり続ける沖縄。普天間基地の県外移設を求める願いは一向にかなわない。なのに首相はきっぱりと言い切った。「基地負担の早期軽減を目に見える形で進展させる」▲また口先だけに終わりはしないか。その普天間に米軍は、事故が相次ぐ垂直離着陸機オスプレイを配備しようとしている。首相が身をていして待ったをかけるのなら、確かに高配と呼べるだろうが▲「軍は県民を顧みるいとまがなかった」。あの電報で中将は率直な反省の弁を漏らしている。その「軍」を「政府」に置き換えれば…。首相がまず引用すべきは、こちらのくだりではなかったか。

(2012年6月24日朝刊掲載)

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