×

社説・コラム

天風録 「スパコン」

 「2位じゃだめなんでしょうか」。民主党の参院議員が事業仕分けで発言し、一躍その名が知られたスーパーコンピューター「京(けい)」。昨年、計算の速度で世界ランクの頂点に立ったものの、天下は長く続かなかった▲代わってトップに躍り出たのは、巨木の名を冠した米国の「セコイア」。臨界前核実験の膨大なデータを扱う研究所に鎮座する。「核兵器の維持管理に資する」などとご満悦の米国政府。核兵器を使われた側にはどう響くのか、考えたこともないだろう▲一方の「京」は津波予測や新薬開発での活用を目指すという。実現すれば、1位でなくても十分に誇らしい。それでも開発メーカーは首位奪還を目指し、早くも後継機の実現へ動きだした▲建築家の安藤忠雄さんは近著で、コンピューター全盛の時代こそ「思考、表現と判断力によって自分の世界を作る」ことが大切だと説く。設計にじっくり時間をかけ、五感に訴える独特の作風を切り開いてきた人らしい▲スパコンの主人はあくまで人間だ―。それが安藤さんの言葉の裏側にありそうな教訓ではないか。世界一を目指す最速争いもいいが、肝心なことに頭が回らなくなっては困る。

(2012年6月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ