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社説・コラム

社説 電力会社と自治体 住民の声に耳を傾けよ

 原発を持つ9電力会社の株主総会がきのう一斉に開かれた。一部の会社の総会では大阪市をはじめとする自治体が、「脱原発」などを株主提案した。

 経営維持に原発を位置付ける会社提案はいずれも覆らなかったものの、「物言わぬ株主」の一角にあった自治体としては異例のことである。

 自治体の電力株保有は、電力の国家管理を強めた戦前の配電統制令にさかのぼる。戦後も民営公益事業方式といえる、9電力(後に10電力)体制の下で引き継がれてきた。

 共同通信の最近の情報公開請求などによると、電力株を保有する自治体が2011年度までの5年間に受け取った配当金は少なくとも総額727億円。配当金は東京都では都営バス事業費に充てられるなど、財政に織り込み済みだったようだ。

 今となっては「なれあい」とのそしりも免れまい。

 福島の事故以後、原発の安全対策や料金値上げ、さらには経営改革など電力会社をめぐる課題は山積する。その渦中にあって大株主たる自治体の姿勢も問われて当然であろう。

 その意味で関西電力の筆頭株主、大阪市と橋下徹市長の動きは注目された。

 大飯原発再稼働を最優先課題の一つとする関電に対し、早期の「脱原発」を提案。京都市と神戸市も原発に依存しない電力供給体制を提案したが、いずれも否決された。

 政令指定都市がこれだけの意思表示をした意味は小さくないはずだが、関電の旧態依然たる姿勢は解せない。脱原発は火力発電燃料コストの増加と収支悪化につながる、と繰り返すだけでいいのだろうか。

 否決された株主提案についても、今後の経営に生かす度量を持つべきだ。それこそが激動期に入った電力業界に求められる経営姿勢ではないか。

 東京電力の株主総会では東京都の猪瀬直樹副知事が経営の透明性確保などを求めた。勝俣恒久会長の日本原子力発電非常勤取締役への就任辞退も迫った。いずれも否決されたが、原電は電力各社の出資企業であり、このような身内人事に反発を予想しなかったのだろうか。

 1兆円の公的資金が注入され、事実上国有化される東電の首脳にもかかわらず、今後さらに厳しくなる国民の視線を意識しているとは思えない。

 原発の運転停止・廃炉などが株主提案された中国電力では、筆頭株主の山口県振興財団(清算中)が総会を欠席し、保有株分の議決権行使書を白紙で出した。会社提案への賛成を意味するが、二井関成知事は「株式保有と経営参画は分けて考える。白紙は経営参画とはいわない」としている。

 上関原発建設予定地を抱える県としては中立的な立場でありたいようだ。だが、今後、県知事の判断が問われるとき、筆頭株主でありながら「欠席・白紙」で回避できるかどうか。住民の安全・安心を最優先させようとした場合、それでは済まなくなる可能性もあろう。

 電力株を保有する自治体は物言わぬ株主として安住してきた時代の意識を変え、部内に専門職を置いてチェック体制を確立すべきだ。電力会社に対する住民の意見を吸い上げ、反映させる仕組みが必要だろう。

(2012年6月28日朝刊掲載)

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