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社説・コラム

社説 オスプレイ配備計画 政府は米国の代弁者か

 外国のいうがまま自国民に危険と不安を押しつける。日本政府は一体だれの代弁者なのか。

 野田政権が米海兵隊の垂直離着陸輸送機オスプレイの配備計画を受け入れる。米国からの正式通告によると7月下旬に米海兵隊岩国基地(岩国市)に搬入して試験飛行をした後、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備されることになる。

 半月前に米フロリダ州で空軍の同型機が墜落したばかり。それでも米政府の「安全だ」との言い分をうのみにした格好だ。

 基地の足元の首長たちが一斉に反発したのも当然だろう。

 きょうから沖縄、山口両県を訪れる森本敏防衛相は「事故調査が終わっていない時に、安全に確信を持っていただけることは一国民の立場に立っても無理」と言い放った。ならばなぜ米国に「ちょっと待て」と言わないのか。

 岩国での試験飛行はフロリダの事故の調査報告が出るまで控えるという。政府からすれば米国と交渉し、地元への配慮を引き出したと言いたいのだろう。しかし米側の腹一つで飛ばせることには変わるまい。

 そもそもオスプレイに関し、米軍の言い分が信じられるのか。開発段階を含めて大きな事故を繰り返し、乗員30人以上が死亡している。エンジン全停止の場合の緊急着陸機能に欠陥があると米国内での指摘もある。

 それでも国防総省は安全と言い張る。4月にモロッコで起きた墜落死亡事故も機体の欠陥ではなく「操縦ミス」という。しかし危険性とはパイロットの技術を含めたもののはずだ。

 普天間に配備された後、どう飛ぶのかも不安が募る。日本政府に米側が提出した環境審査報告書から、列島各地で訓練する計画が判明したからだ。もはやオスプレイは沖縄だけではなく日本全体の問題といえよう。事故の危険に加え、騒音被害が全国に広がる恐れがある。

 報告書によると岩国基地とキャンプ富士(静岡県御殿場市)に月2、3日飛来するという。岩国は滑走路の沖合移設を終えたとはいえ、山側に住宅地が密集している。

 さらには四国を横断する「オレンジルート」など六つの飛行路で、戦闘機と同じように低空飛行訓練を繰り返すとしている。明記されてはいないが、中国山地の「ブラウンルート」を飛ぶとの見方もあるようだ。

 米側の理屈からすれば、いつどこを飛んでもいいのが現在の日米地位協定である。各地の自治体が米軍機低空飛行への抗議の声を上げて久しい。オスプレイ配備を機に、堂々と開き直って訓練を増やそうという姿勢自体が許しがたい。

 このままなら国民の不信感が強まる一方だ。日米安保体制の根本も問い直されよう。

 普天間をめぐる迷走を受け、民主党政権は、米国にすり寄る姿勢が露骨に強まった感がある。今回の問題もその流れにあるのは間違いない。「対等な日米関係を」としたマニフェストなど忘れてしまったのだろう。

 今からでも遅くない。野田佳彦首相は国民の不安を解消し、安全を守るという原点に立ち返ってもらいたい。森本防衛相が出向く先は沖縄県や山口県ではないはずだ。米国を説得し、強引な配備計画にストップをかけるべきである。

(2012年6月30日朝刊掲載)

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