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社説・コラム

『潮流』 田んぼの中の祈念館

■論説委員 岩崎誠

 琵琶湖のほとりから車を走らせ1時間。田んぼが続く。道を間違えたかと思い始めたころ、「滋賀県平和祈念館」の看板が見えた。

 東近江市の郊外に3月オープンしたばかり。合併で余った旧町の庁舎を県が借り、改修したものだ。

 展示はコンパクトだが充実していた。地元への空襲で投下された焼夷(しょうい)弾や戦地からの手紙、学徒動員の記録などの現物資料を使い、地域が戦争にどう巻き込まれたかを一通り学べる。

 原爆投下に先立ち、大津市に落とされた模擬原爆「パンプキン」の実物大模型も目を引く。ただ不便さからか、週末なのに来館者はほとんどいなかった。

 館の立地は計画の紆余(うよ)曲折ぶりとも関係する。構想が生まれたのは約20年前。28億円を投じる新施設の着工手前まで進んだが、財政難で棚上げに。縮小し、既存施設を活用することで開館にこぎつけたと聞く。

 その間、県民から集めた資料や遺品などは2万5千点。託された思いを伝えるためにも、もっと多くの人に見てほしいと感じた。

 戦後67年のことし、実は戦災資料を新たに展示する自治体の動きが、各地で活発になっている。

 岡山市もその一つ。JR岡山駅前の市デジタルミュージアムの衣替えに合わせ、岡山空襲に関する資料をこの秋から常設展示する。惨禍の記憶の聞き取りも充実させるという。

 戦争体験者がまだ元気なうちに語り継ぐ場を。思いは共通していよう。それぞれの動きを、大きなうねりにしていく必要がある。

 日本平和博物館会議を生かせないか。18年前に広島市の提唱で発足した。被爆地や沖縄などの10館が加わるが、情報交換以外の取り組みは活発とはいえない。

 11月には年1回の会議を9年ぶりに広島で開く。新たな「仲間」にも呼び掛け、一緒に何ができるかもっと知恵を出し合いたい。

(2012年6月30日朝刊掲載)

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