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社説・コラム

今を読む 広島大国際センター研究員 小倉亜紗美 地域環境のためにできること

社会の仕組み 議論の夏に

 スイッチを押せば電気がつき、蛇口をひねれば水道から飲める水が出る。ガスを使うにもボタンを押せばいい。それが当たり前の世界で暮らしている私たちは、電気、水、ガスがどこでつくられ、どう運ばれ、使った後にどのようになってゆくのかを考える機会はあまりなかった。

 言い換えれば、高度経済成長が生んだ価値観のもとに、この社会は形成されてきたのではないか。資源は無限にあり、経済成長を続けることは当たり前、科学は全ての問題を解決でき、自然さえ操ることができるのだと。

 世界自然保護基金(WWF)ジャパンによると、世界中の人が日本人と同じ生活をすれば、地球が2・3個必要なほど資源を消費するという。

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 そんな私たちが「3・11」を体験した。地震と津波、そして原発事故を目の当たりにした。環境問題、特にエネルギーについての関心が、かつてないほど高まっているのは当然の成り行きであろう。

 これを機に考えたい。私たちが常識と思ってきたことは本当に正しいのだろうか。社会のルールはいったい誰が決めたのか。行政や政治家に任せっぱなしで、私たちが政策決定に関わることはないと決めつけていないだろうか。私たちの街そして生活を、行政や事業者だけに任せてしまっていないだろうか。

 現実に無関心で、しかも無言でいることは、時にそれを支持したのと同じ意味になってしまう。

 小さいころ遊んでいた川が公共工事で三面護岸になり、生き物が激減したという話をよく聞く。しかし地域住民の意見を聞く場があり、それを政策に生かしていく仕組みがあれば、こうした川は今も多くの生き物の生息地だったかもしれない。

 私たち自身も、行政に意見を届けてこなかったことを反省し、今後に生かさなければならない。

 環境を守るには、まず地域の環境に興味を持ち、現実を知ることだろう。さらに自分たちの望む環境を守るために行動し、そして自分の考えや想(おも)いを周りの人に伝えること。これに尽きるのではないだろうか。

 3・11を機に、エネルギーについては、こうしたステップが急速に進んでいるように思える。

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 問題はその先だ。今の社会は市民の意見を行政の施策に反映する仕組みが十分に整っているとは言い難い。それどころか原発についての過去のシンポジウムなどで、国が「やらせ質問」や推進派の動員を指示していたことが明らかになった。

 市民が発言し、行動する環境をどう築いていけばいいのか。筆者も幹事としてかかわる「エコネットひがしひろしま」を事例としたい。

 市民、団体、事業者と東広島市が連携し、持続可能な社会を目指したまちづくりに取り組むネットワーク組織として2010年に発足した。

 そこでは会社員や大学生たちが幹事として参加し、年齢や立場にとらわれずに知恵を出し合っている。それぞれが互いの強みを生かしながら協力し、活動している。

 強制力はないが、しがらみもない。新エネルギーの普及や省エネ、地産地消などのテーマで自発的にワーキンググループが生まれ、少しずつでもアクションを起こす。今では市の環境基本計画推進の一翼を担っているとの自負も生まれつつある。

 地域のあすを考えるためにエネルギーはもちろん、河川環境の保全やごみ処理、ひいては私たちの暮らしや消費のあり方について、まずは市民と事業者、行政などがオープンな場で意見を言い合える場が必要ではないだろうか。

 その上で行政の施策や企業の地域活動、市民一人一人の行動を通じ、この社会を今の時代に合った仕組みに変えていかなければならない。

 もちろん私たちが地域環境について意思表示をすることが、住みよい街をつくる第一歩と考えている。

 日本列島で原発はいったん「ゼロ」となったものの、再び動きだしている。今こそ、この夏の乗り越え方の議論から始めてはどうだろう。

広島大国際センター研究員 小倉亜紗美
 81年兵庫県生まれ。広島大大学院修了。博士(学術)。10年より現職。「エコライフクリエーター」を名乗り、環境に優しい生き方を伝える活動を続ける。

(2012年7月3日朝刊掲載)

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