×

社説・コラム

視点2012 IPPNW世界大会 広島開催で「原点回帰」

 核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の世界大会が8月24日から26日まで3日間の日程で、広島市で開かれる。被爆地広島での23年ぶりの開催をより意義深い機会とするため、IPPNW日本支部(事務局・広島市西区)は、被爆体験を受け継ぐプログラムを盛り込む。国外からの参加者の間では、福島第1原発事故を受け、「脱原発」や被曝(ひばく)者医療への関心が高まっている。(山本堅太郎)

核兵器廃絶 機運再び

原発問題対応にも注目

 20回の節目を迎える世界大会は、中区の広島国際会議場に国内外から医師約500人が集う。期間中、六つの全体会議を開き、核保有国に核兵器禁止条約(NWC)の早期締結を促すキャンペーンの進み具合や世界の安全保障の現状などについて意見を交わす。

 25日は教育講演がある。土肥博雄・日本赤十字社中四国ブロック血液センター所長たちが、原爆放射線の健康への影響を解説する。

 1989年以来、2回目の広島開催。日本支部事務局を務める広島県医師会は、国内外の中高生が核兵器について話し合うユースサミット(25日)、被爆2世の医師が集うシンポジウム(同日)を計画した。

停滞気味の活動

 「世界の医師に原爆がもたらした惨状を伝え、核兵器廃絶の機運をもう一度高める」。日本支部長を務め、5月に亡くなった県医師会の碓井静照会長は世界大会の目標をそう掲げていた。近く選ばれる後任もその方針は引き継ぐとみられる。

 背景には、IPPNWの活動が停滞気味で、内容も変化しつつある現状への危惧がある。医師たちは創設以来、「核と人類は共存できない」と世界に訴えてきた。しかし、現在の加入者は62カ国約10万人。80年代の85カ国約20万人からは大きく減った。

 活動内容も近年は、地雷の撤廃や武器輸出禁止などへと広がった。日本支部の片岡勝子事務総長は「冷戦が終わり、核戦争の現実味が薄れた。視点が核兵器廃絶から離れつつある」と明かす。広島開催で、活動の「原点回帰」を目指す。

 一方、国外の医師のまなざしは、原発問題に集まる。国外からの強い希望を受け、日本支部は当初予定していなかった全体会議を急きょ、最終日の日程に差し込んだ。テーマは「原子力エネルギーの健康と環境への影響」。福島第1原発事故の経緯と医療支援についても学ぶ。

内外 異なる思惑

 IPPNWは昨夏、日本の原発事故の対応を批判する抗議文を、当時の菅直人首相に提出。欧州の支部から日本支部へ「日本での世界大会で脱原発を強く発信するべきだ」という声も寄せられた。

 しかし、日本支部の思惑はやや異なる。「国のエネルギー政策を批判するような反政府活動につなげたくない」と片岡事務総長。被曝者医療の支援や研究にウエートを置く医師の立場を貫く。

 最終日には大会宣言の採択を予定している。被爆体験の継承や核兵器廃絶の訴えと原発問題をどのように盛り込むのか。国内外の温度差が広がる中、宣言をまとめ上げ、節目の世界大会を成功に導く手腕が日本支部に求められる。

核戦争防止国際医師会議(IPPNW)
 東西冷戦さなかの1980年、核保有国の米ソの医師が中心となって創設。基本理念として、放射線被曝の影響などについて医師の持つ知識を広め、核戦争防止を目指す。85年にノーベル平和賞受賞。世界大会は2000年から隔年で開かれている。

(2012年7月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ