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社説・コラム

社説 国会事故調の報告 「人災」重く受け止めよ

 福島第1原発の事故は明らかに人災だった―。政府と東京電力はこの指摘を重く受け止めなければなるまい。

 東日本大震災による原発事故の原因を究明するため、国会に設けられた事故調査委員会の報告書が下した結論である。

 なぜ人災なのか。東電が先に公表した社内の調査委員会による報告をはじめ巨大津波が原因とする言説が大勢だが、国会事故調の見立てはこうだ。

 3・11より前に、津波による全電源喪失に至る危険性があると、原子力安全・保安院と東電は認識を共有していた。

 対応を先延ばしにし明確な指示もしなかったのは、経済産業省内の規制当局が、行政と密接な関係にある事業者の「虜(とりこ)」になっていたからだ。

 防護の国際基準や米国での核テロ対策などに照らしても、必要な措置を講じていなかったため事故を防げなかった―。

 歴史上の巨大地震による津波の検証や電力業界と行政、一部専門家のもたれ合いが事故後、明るみに出た。こうした事実に裏付けられた見方といえる。

 国会事故調は直接の事故原因でも、地震による損傷を「確認できない」などとする政府、東電の事故調に疑問を呈した。

 焦点になったのが1号機に備えた非常用復水器。一部系統の電源喪失は津波の到来前に震動で生じた可能性があるとし、復水器の操作マニュアルも事前の訓練も不十分だったとする。

 地震の影響をどうみるかは意見が分かれており、さらに詳細な検証が必要だろう。それでも事故原因を津波に限定して講じる安全策は万全といえまい。

 事故の被害を広げた責任は今回の報告も言うとおり、菅直人前首相と東電首脳にある。

 政府は緊急事態宣言を出すのが遅れたうえ、避難や汚染への対応で「念のため」「直ちに影響は生じない」と曖昧な説明を重ねて住民を不安にさせた。

 原子炉のベント(排気)や海水注入という重大な決断を迫られた時に会長、社長が不在だった東電は事故処理に懸命の現場を置き去りにした格好だ。

 一方、報告は緊急時に放射能の影響を予測するシステムの利用で新たな見解を示した。

 事故直後、原発から北西部を中心に放射能が拡散するデータをつかんでいながら公表しなかった政府への批判が強かった。

 実際には電源喪失で放出データが得られず仮定の数値による試算だったため、報告は「初動の避難指示に活用することは困難だった」とする。厳密さを期した判断かもしれない。

 総じて報告からは、規制当局や東電の自己弁護を排除しつつ公正さを確保しようという国会事故調の姿勢がうかがえる。「事故は終わっていない」との思いが前提になっている。

 だからこそ調査を踏まえた提言も尊重したい。まず欠かせないのが未解明の部分をはじめ被害の拡大防止や廃炉の道筋についても調べることだ。

 規制当局を監視するため原子力問題の委員会を国会に設ける案には、政治の介入を懸念する向きもあろう。ただ、これだけ重みを増した問題を絶えず論議する場は情報隠しを防ぐためにも必要ではないか。

 真相を徹底究明し、被災者支援と脱原発依存を確実にすることが報告書を生かす道である。

(2012年7月7日朝刊掲載)

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