×

社説・コラム

視点2012 オスプレイ 普天間配備難航なら 岩国での暫定運用懸念

 米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの、米海兵隊岩国基地(岩国市)への先行搬入と普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)配備を計画する米政府と米軍。沖縄、山口両県知事、宜野湾、岩国両市長は反対姿勢を明確にする。米政府と米軍は今後、どのような行動を取るのだろうか。(編集委員・山本浩司)

 米側がオスプレイの普天間配備を急ぐ大きな理由は二つある。

 第一は、同型機を運用する米海軍の強襲揚陸艦ボノム・リシャール(4万500トン)が今年4月から、米海軍佐世保基地(長崎県佐世保市)に配備されていることだ。

 同艦は、同型機を運用するために本国で艦内などの改修を済ませている。艦を本格運用するためには陸上基地である普天間に配備することが不可欠だ。

沖縄限定訓練も

 第二は、同型機の訓練の一部が沖縄でしかできないからだ。伊江島での陸上空母離着陸訓練(FCLP)、沖縄本島など50カ所の着陸帯を使った離着陸訓練と海上の訓練空域での実弾射撃訓練だ。

 米インターネットサービスの衛星写真で、伊江島を見ると日本で唯一、強襲揚陸艦の飛行甲板を模したFCLP施設がはっきりと見て取れる。同型機は、ここでの訓練なしにボノム・リシャールで運用できない。

 同サービスで、沖縄本島の北部訓練場に設置された着陸帯(LZ)が確認できる。陸上の目標地点に兵士や物資を送り込んだり引き揚げたりする訓練も、この施設があり、搭乗する海兵隊歩兵がいる沖縄でしかできない。

 こうした背景もあり森本敏防衛相は、6月30日から今月1日にかけて関係自治体を訪れて理解を求めた。しかし、沖縄県、宜野湾市、山口県、岩国市の首長は明確に反対した。

 「市は国防に協力するスタンスできた」という福田良彦岩国市長も「安全性の不安が払拭(ふっしょく)されていない状況では飛行の有無にかかわらず了解できない」と明言。先行搬入は袋小路に入り込んだ。

 一方、同型機の配備を予定通り進めたい米側は現地時間の1日、米サンディエゴから12機を船で岩国基地に向けて送り出した。

 軍事評論家の前田哲男さんは「日本政府は、オスプレイが岩国に到着するまでに毅然(きぜん)とした態度をとるべきだ」と指摘する。しかしそれができなかった場合、どのような事態が想定されるのか。

陸揚げを強行か

 まず同型機の岩国基地到着時に地元自治体や住民は反発。その際米側の選択は、すぐに機体を陸揚げしない、陸揚げを強行する―のいずれかだが、後者になるとの見方が強い。

 次の段階は、試験飛行実施だ。米側は、モロッコと米本土の事故の詳しい調査結果を日本政府に伝えた段階で「説明責任は果たした」と判断。岩国基地周辺での試験飛行を強行する可能性が高い。

 問題はその後だ。沖縄県の仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事は強行配備後事故があれば「(県内の米軍の)全基地即時閉鎖という動きになる」と予告。普天間配備のハードルはいっそう高くなった。

 その場合、搬入を強行した岩国基地での「暫定運用」が懸念される。沖縄でしかできない訓練は、岩国基地から伊江島に移動して実施。訓練後、岩国基地に戻るという方法だ。

 前田さんも「岩国基地での暫定運用はありえないことではない」という。機体の岩国搬入までに政府が毅然とした対応をしない場合、山口県、岩国市をはじめ中国地方の自治体は、米側に直接対応することが求められる。

(2012年7月7日朝刊掲載)

年別アーカイブ